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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第20章
「クリス、たかいたかいして~~?」
長身の叔父に抱っこされた匠斗が、そう無邪気にはしゃぐ。
「いいよ。それ……。重くなったね、匠斗」
「もう1かい、もう1かいっ!」
高く可愛い声でおねだりする幼子に、見守る祖父母の表情も和らいでいく。
子はかすがい――とは、昔の人はよく言ったものだ。
楽しそうな子供の声が、沈鬱なダイニングルームの空気を一変させる。
まるで乾燥しきった空気の中に、温かく柔らかな水の微粒子が充ちていくような。
パズルの足りないピースを、やっと見つけてはめられたような。
「………………」
半分食べ終えたフィレ肉が、腑の中でずっしりとした石のように重みを増す。
匠海が欲しかったのは、こういう家族なのかもしれない。
父と母がいて。
弟がいて。
己の “血” と “名” を分けた子がいて。
そして、きっとそこには、
甥を我が子の様に愛し育んでくれる妹がいて――
けれど、
私が兄をこちら側に引きずりこまなければ、匠海はどういう家族を夢想した?
父と母がいて。
弟と妹がいて。
可愛い子供達と、素敵な妻がいて。
誰も悲しませない、誰とも離れなくていい。
そんな、ありふれた家族だった筈、なのに――
「リンク、行く……?」
気づけば近くにいたクリスが、そう囁いてくれていた。
どんな時も助け船を出してくれる寛容な双子の兄を見上げたヴィヴィは、ゆっくりと首を振った。
「ううん……。ここにいる」
いつも都合が悪くなると、ことごとくリンクに逃げ場を求めてきた自分。
けれどもう、この場に留まってきちんと見なければならない。
“現実” を。
自分の行いのせいで母を泣かせ、父を当惑させ、双子の兄に要らぬ手間を取らせ。
匠斗からは母と弟を、瞳吾からは父と兄を取り上げさせ、
そして、
瞳子からは身を削って設けた我が子を奪ってしまった。