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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第20章
瞬時に駆け巡った過去の男の醜い嫉妬に、小さな顔は更に歪む。
けれど、その表情を確認した電話相手は さも当然そうに頷くと、自分の逞しい胸に掌を置いた。
「 “今度” は俺! 今彼はこのフィリップ様だからなっ!」
もっと踏み込みたいのに、踏み込ませて貰えない。
そんな彼の焦りみたいなものが、ほんの少し赤く色づいた耳からうかがえ知れた。
「よって、悩んだら俺に相談しなさい。浮上できなかったら俺が力づくで引き上げてやる」
「………………」
「ヴィー、あと7ヶ月しかないんだよ?」
「……――っ」
「悔しかったんだろう、不甲斐なかったんだろう? もう、 後悔したくないんだろう?」
「う、ん……っ」
前回の五輪の事を考えるだけで、未だに這い上がってくる悪寒。
己の根幹を成すフィギュアの、その集大成ともいえる大会の記憶を、そんな苦しみを伴った追憶でしか辿れないなんて。
「だったら俺を頼れ、良いように利用しろ。俺だったらヴィーを支えてやれるから」
「………………」
結果的に、妹の五輪を邪魔した形になってしまった匠海。
そして、打算的なところはあるが、全力で応援してくれているフィリップ。
どちらの手を取るべきかなんて、誰の目にも一目瞭然、だけれど――
(……それで、いいの……?)
兄との関係を絶つためだけに利用した筈の男を、こんなにずるずる頼っていて大丈夫なのだろうか?
自分には、彼への恋愛感情は無いというのに――
そもそも自分の足で立たなければならないのに、これではまた誰かに縋ることになるのでは?
ヴィヴィの中で生じた疑問に、向き合う暇さえ与えてくれないフィリップは、
「てことで、俺、メンタルコーチで試合に帯同していい?」
「―――っ!? そんなの、絶対に駄目っ!!!」
灰色の目を剥いて断固反対したヴィヴィに、画面の向こうのフィリップは、
「あはは、元気になった」
そう白い歯を輝かせながら、さも愉快そうに笑ったのだった。