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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第20章
オックスフォードに戻り自室へ足を踏み入れた途端、華奢な背にどっと疲労が圧し掛かってきた。
自分で思っているよりも、1ヵ月滞在した日本での生活が負担になっていたようだ。
兄妹のように慕っている真行寺兄妹の結婚式。
各スポンサーによるCM撮影。
8月頭に東京にて開催する、双子の主催のアイスショーの準備、宣伝。
特別強化選手合宿。
そして敬愛する浅田主催のTHE ICEを各地で三公演。
ぎっしり詰め込まれたスケジュールも勿論、気力体力共に困憊させるものだったが――
絶縁した長兄と ひょんな事からニアミスしない様に気を張り続ける事が、今のヴィヴィにはとてつもない心労となっていた。
「ふはぁ~~~~~っ」
腹の底から絞り出したのは重い溜息と、言い様の無いモヤモヤした何か。
飛行機の中で散々寝たのに重い目蓋をきつく閉じ、目の前の白革のソファーの背に両腕を突いた、その時。
「おかえり」
「―――っ!? ぅわぁっ びっ びっくりしたぁ……っ!!」
すぐ下から掛けられた声に、文字通りその場で飛び上がったヴィヴィは、灰色の瞳を零れんばかりに見開く。
「ふっふっふっ、ドッキリ大成功!」
♪テッテレー♪という昭和感溢れる効果音が聞こえてきそうなフィリップの悪巧みに、まんまと引っかかったヴィヴィはひたすら悔しそうに言い募る。
「~~~っ!! 嫁入り前の“おなご”の部屋に勝手に入るでないっ!」
けれどソファーの座面に寝そべり隠れていた男は、全く悪びれないどころか長過ぎる脚を組んでニヤニヤしている。
「朝比奈の了解はとったぞ~~」
「わ・た・し、の了解は取ってないでしょ!」
「ていうか、嫁入り後なら勝手に入っていいわけ? じゃあ、早速 婚姻届を出しに行こう、もちろん、この俺様とな!」
立てた親指で彫りの深い顔を指しながら揚げ足取りな返事を寄越すフィリップに、げっそりしたヴィヴィは更に疲労を蓄積させた。
「………………」
(ていうか、何でここにいるのよ……)
10月から博士3回生になる彼は、この7月から研究対象の企業に入り浸り、寝る暇も無いほどに多忙を極めている筈なのに。
(帰国している間に元彼と会わなかったか、今彼として探りを入れに来た――とか?)