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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第20章
目の前で能天気に笑っている男は、自分なんかよりもっとその身に背負っているモノがあるというのに、こんな下らない事に時間を費やしていて良いのだろうか。
日本に帰国してすぐの頃、テレビ電話越しに寄越されたフィリップの言葉が脳裏によぎる。
『だったら俺を頼れ、良いように利用しろ。俺だったらヴィーを支えてやれるから』
「……利用されるだけされて、用済みになったらポイされるかもしれないのにさぁ……」
ぽつりと零れた心の声を、かの王子は聞き逃さなかった。
「俺がそんな殊勝なタマに見える?」
「見えない」
即答したヴィヴィに、フィリップは面白そうにくつくつと笑う。
「ヴィーが俺を利用する毎に解析&蓄積されたデータにより顧客満足度が上がり、身も心も満たされる付加価値が確立され。そしていつしか、ヴィーは俺というアプリが無いと不都合を感じるように――」
(……スマホ……?)
「とはいえ、俺もたまには褒美を貰わないと、一緒に鬼が島へ行けるかどうか……」
(今度は、桃太郎……?)
「だから、ヴィーの気が向いた時にほっぺに「ちゅっ❤」とキスなんかしてくれたら、それだけで襲いくる鬼をばっさばっさ切り捨てて――」
「~~~っ “キビ団子” やるから、今カレとして従順に働かぬか……っ!」
思わず汚い言葉で罵ったヴィヴィは、世界の秘宝――と崇められる程 高い顔面偏差値を持つ男のツラに、日本土産を押し付けてやった。
「お! あんこだ。俺が“こしあん”好きなのを知ってくれていたとは。もしやヴィー、俺のこと……?」
「ただの偶然ですぅ~~。次からは“粒あん”にしてくれるわ!」
手放しで喜ぶ相手にも、ヴィヴィは細い鼻から「ふんっ」と息を吐いて不貞腐れる。
「YEAH~! 次もお土産を選んで買ってきてくれるとは! デパートや空港で、ヴィーが「フィルにはどれがいいかしらん? 悩むぅ~~♡」となっている状況を想像するだけで、フランスパン三本はいけるっ」
黙っていたら究極の二枚目なのに、口を開けばイメージ丸潰れな三枚目な男に、
(そこは、ご飯三杯じゃないのか……)
そんなどうでもいい突っ込みを胸の中でしたヴィヴィは肩を落とし、すごすごとウォークインクローゼットへと向かう。