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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第20章
一度は結婚して妻子を持った三十路の息子が、祖父母のいる故郷へ毎年のように両親と帰省するのは難しいだろう。
そう現実を見つめる父に対し、母はまだ納得いかないらしく「そうだけどぉ~~」と悔しげな声を上げる。
隣の席のクリスが若干呆れ顔で茶器を取り上げたのに倣い、ヴィヴィも目の前に饗された紅茶を手に取る。
こうして匠海の今を誰かの口から聴かされるのは、正直なところキツイ。
だが逆に、色々とありながらも息子と現実を生き、そして前に進んでいると知れる状況は「恵まれているな」とも思う。
もし、ヴィヴィと匠海が他人同士で男女として交際し破局を迎えたとすれば、当たり前だが そこで縁は切れる。
よって、別れた相手の現況を知る事も無いだろうし、離別の事由によっては「知りたくもない」と思うだろう。
だがやはり、二人は15年もの期間、兄と妹として育ったから。
一緒に長い年月と思い出を共有した、かけがえの無い家族だったから。
ヴィヴィとしては、匠海が人の親として真っ当に生きている事を知る事が出来るこの状況は、やはりありがたい。
『ちゃんと二人を……匠斗と、瞳吾……。守って。幸せにしてあげて?』
今生の別れを切り出した時、本心から口にしたその思い。
(甥っ子達は勿論だけど、私は……お兄ちゃんにも幸せに、なって欲しい……と、想ってるんだと思う……。たぶん、だけど……)
ただ、最期になされた匠海の狂った行いで、自分の中で その思いは少し……いや、多分に捻じ曲がってしまったところもあるが――
「………………」
己の両掌に収まっている白磁のティーセットを彩るトスカーナの新緑、そして持ち手の金彩、それらを静かな瞳で辿っていたヴィヴィ。
けれどその思考は、目の前の母によって遮られた。
「ねえ、ヴィヴィ?」
「ん?」
「あんた、もしかして匠海と――」
「………?」
「喧嘩でもしてるの?」
そんな母の脈絡の無い問いに、娘はきょとんとしながら「え?」と返す。
「だってね、だいたい “匠海が篠宮に寄り付かない理由” は、いっつもヴィヴィにありそうなのよね!」
「なにそれ」