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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第20章
表面上は「酷い濡れ衣だ!」と言わんばかりに顔をしかめて見せたヴィヴィだったが、その内心は冷や汗だらだらだった。
実は昔からジュリアンはそういう勘が鋭い。
やはり元コーチだからか、それともたった一人の娘だからか、ただ単に子供達の中で一番危なっかしく見えるのか――特にヴィヴィの事を注意深く観察する傾向にある。
母の読み通り、匠海と匠斗が今回の英国里帰りに同行しなかったのは、100%ヴィヴィのせいである。
それを知っているのは、この場では双子だけ。
だが、母としてというよりは女の勘なのか、疑り深いじと目で見やってくるジュリアンに恐れをなしたヴィヴィは、何とかこの場を「匠斗の将来のため」という常套句で逃げ切ろうとした、その時。
ピルピルピル、と無機質な着信音がテーブル上のスマホから鳴る。
「おっと、電話」
藁をも掴む勢いで さっと手にしたスマホ。
そして着信相手に目を通したヴィヴィは、背後に控えていたフットマンに目配せし、椅子を引いて貰い立ち上がった。
「あ~~、ヴィヴィ、逃げたな~~!?」
「ち、違う違う、大事な電話なの」
母からのその追及に、空いた方の掌で「ゴメン」のポーズをしたヴィヴィは、いそいそと家族団欒の場から離れ、人気の無い母屋と園庭を繋ぐ回廊に辿り着くと電話に出た。
『ヴィー! My sweet baby~~❤』
スマホからハートが飛び出て来そうなほど甘露な声音で語りかけてくる相手に、ヴィヴィはワンピースの肩をガックリと落す。
「はいはい……、sweetでもbabyでもないけど、何の用?」
『おや、疲れた声だな? 何かあった?』
「ん~~、大した事じゃない」
案じてくれる電話先のフィリップに、いつも通りの投げやりな返事を返したヴィヴィだったが、しかしこのタイミングで電話をくれた事だけは心の底から感謝していた。