この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第20章
『ふうん。ところで俺、今 オーウェン邸の前にいるんだけど』
「え……? って、ロンドンの?」
『そう。今彼として、ぜひヴィーの父上と母上にご挨拶をと思ってね』
そう言う声は語尾が笑っていて、通話相手は きっといつも通りヴィヴィに「No!」と一刀両断されると思っていたのだろう。
けれど、今日のヴィヴィは違った。
渡りに船、とはまさにこの事――だ。
「……っ!!! Great job、フィリップ!! 初めて役に立ったっ!」
そんな失礼極まりない事を叫ぶように言うと通話ボタンを切り、一目散に屋敷の玄関ホールへと駆けて行く。
鬼気迫る顔で突進して来たヴィヴィに、ドアマンが驚いた表情を見せながらも、さっと外に向かって扉を押し開いてくれた。
「ヴィー! そんなに息を切らして飛んで来てくれるなんて、よほど俺に会いたかったんだね! さあ、再会のハグを」
ヴィヴィの姿を目にした途端、扉の前に立っていたフィリップは、彫りの深い眼窩から覗く碧眼を幸せそうに細めたが、対するヴィヴィは小声で「違う!」と一蹴し、その片腕を引っ張り背伸びをする。
「お願い、ちょっとピンチ。両親の前で私に話を合わせて!」
「ふむ……。了解」
ドアマンがいる手前、小声で耳打ちしたヴィヴィに対し、到着したばかりのフィリップは状況も呑み込めていないだろうに すぐに首肯する。
「ありがと、恩に着る! お礼は後で何か――」
「今」
「え?」
「お礼は今。踏み倒されるかもしれないから前払い制だよ」
何故か強気のフィリップに、ヴィヴィは途端に焦りの色を濃くする。
「え? そんな……、って言うか、こしあんもキビ団子も用意して無いよ~~っ」
当然の事ながら自分は桃太郎じゃないし、はたまた岡山県の出身者ではないので、銘菓キビ団子を常にお腰に付けている筈が無い。
「いやいや、ヴィー。そうじゃ無いでしょ?」
ヴィヴィの馬鹿げた返事に、相手は広い肩を軽く上げて苦笑する。