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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第20章          

『ふうん。ところで俺、今 オーウェン邸の前にいるんだけど』

「え……? って、ロンドンの?」

『そう。今彼として、ぜひヴィーの父上と母上にご挨拶をと思ってね』

そう言う声は語尾が笑っていて、通話相手は きっといつも通りヴィヴィに「No!」と一刀両断されると思っていたのだろう。

けれど、今日のヴィヴィは違った。

渡りに船、とはまさにこの事――だ。

「……っ!!! Great job、フィリップ!! 初めて役に立ったっ!」

そんな失礼極まりない事を叫ぶように言うと通話ボタンを切り、一目散に屋敷の玄関ホールへと駆けて行く。

鬼気迫る顔で突進して来たヴィヴィに、ドアマンが驚いた表情を見せながらも、さっと外に向かって扉を押し開いてくれた。

「ヴィー! そんなに息を切らして飛んで来てくれるなんて、よほど俺に会いたかったんだね! さあ、再会のハグを」

ヴィヴィの姿を目にした途端、扉の前に立っていたフィリップは、彫りの深い眼窩から覗く碧眼を幸せそうに細めたが、対するヴィヴィは小声で「違う!」と一蹴し、その片腕を引っ張り背伸びをする。

「お願い、ちょっとピンチ。両親の前で私に話を合わせて!」

「ふむ……。了解」

ドアマンがいる手前、小声で耳打ちしたヴィヴィに対し、到着したばかりのフィリップは状況も呑み込めていないだろうに すぐに首肯する。

「ありがと、恩に着る! お礼は後で何か――」

「今」

「え?」

「お礼は今。踏み倒されるかもしれないから前払い制だよ」

何故か強気のフィリップに、ヴィヴィは途端に焦りの色を濃くする。

「え? そんな……、って言うか、こしあんもキビ団子も用意して無いよ~~っ」

当然の事ながら自分は桃太郎じゃないし、はたまた岡山県の出身者ではないので、銘菓キビ団子を常にお腰に付けている筈が無い。

「いやいや、ヴィー。そうじゃ無いでしょ?」

ヴィヴィの馬鹿げた返事に、相手は広い肩を軽く上げて苦笑する。

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