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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第20章
そして髭の剃り残しなんて微塵も見当たらない引き締まった頬を、爪先まで美しく整えられた指先でトントンと指し示すフィリップに、ようやく2週間ほど前に彼から言われた “褒美” を思い出し、ハッとしたヴィヴィ。
(え~~、イヤだ~~っ 何で、今!? て言うか、ドアマンもこっち見てるし)
小さな顔に心底嫌そうな表情を浮かべ躊躇していたヴィヴィだったが、玄関ホールが騒がしい事に気付いたらしいグレコリーが、遠くから「お~~い、ヴィヴィ? 誰かお客様か~~い?」と尋ねながらこちらにやって来ようとしているのに気づいてしまった。
「お願い! この通りっ」
顔の前で両掌を合わせ小声でそう懇願するヴィヴィにも、相手はこれみよがしにゆっくりとかぶりを振ると、また頬をトントンと指差してくる。
「~~~~っ!!!」
父方生家の玄関先――そのドアマンに一部始終を目撃される羞恥より、母にこれ以上追及される事の方が今の自分には恐怖だった。
一度だけであるが口付けを、更にはそれ以上の事もいたしてしまっている男を、恨めしそうにギロリと睨み上げたヴィヴィ。
(ええい……っ 背に腹は変えられぬっ!)
そう捨て鉢な事を胸の中で喚きつつ、苦悶の表情を浮かべながら背伸びをしたヴィヴィは、フィリップの片腕を思いっきり引き下げると、その上の顔に「ぶちゅ~~っ」と一発お見舞いしてやった。
色気も糞も無い頬へのキスだが、された本人は感激のあまりに「ヴィ――っ❤❤❤」と叫び。
しかし、それをも掻き消す程の大音声が廊下の先から轟いてくる。
「―――っ!? バンビちゃぁ~~~~~~んっっっ!!!!」
この世の全ての悲哀を寄せ集めたかのごとく、悲壮感たっぷりの叫び声を上げたのは、他ならぬ父・グレコリー。
23歳の今も「天真爛漫・無邪気かつ清廉潔白で、男の“おの字”も知らない処女の筈の娘」とヴィヴィを信じきっていたらしい父は、
目の前で行われた娘の破廉恥(?)な行為に これでもかと言うほど灰色の瞳を見開き、やがて がくりと膝を突き廊下に崩れ落ちてしまった。