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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第20章
まるで常からそうしているかの様に自然と肩を抱いてくるフィリップに、内心「調子に乗るな~~っ!」と憤慨したヴィヴィは血管の浮き出た手の甲を抓ってやりたかったが。
如何せん、ドアマンに支えられながら二人の後を着いてくるグレコリーに不審に思われる訳にはいかず、渋々やりたいようにやらせた。
回廊を渡り、夏の日差しに冴え冴えと輝くイングリッシュガーデンに足を踏み入れた三名。
特に親しげに肩を寄せ合う男女を目にしたジュリアンは、分かり易く瞳を大きく見開き、両掌で開いた口を押える。
「まあまあまあまあ……っ!」
そう発した後に言葉を失った母と、嬉しそうな祖母、面白そうに成り行きを見守る祖父に、微笑を顔に張り付けたヴィヴィが紹介する。
「みんな。ええと、こちら、私が今 親しくさせて貰っている――」
「フィリップ・ベタンクール・ドゥ・モニャコっ!!!」
娘の紹介の声に食い気味で、そのフルネームを叫んだジュリアン。
「え……? あ、そう、です……」
母の様子に若干押されたヴィヴィは、どうしてジュリアンがフィリップの事を知っているのか不思議に思ったが。
そういえば日本でも「モニャコ皇太子とフィギュア世界女王の交際」が報道された時期があった事を思い出す。
まあ、あの時は「こんなゴキブリ王子と交際なんてありえないっ!」という状態で、根も葉もない誤報だった。
同席しているクリスに気付いたフィリップは軽くウィンクをして挨拶し、双子の兄も軽く頷く。
「お爺様お婆様、突然の訪問の非礼をお許し下さい。そしてお母様、お目にかかるのは初めてですが、常よりテレビにてご活躍を拝見しております」
娘の肩を掌でひと揉みした男は、すっとそこから腕を引くと、祖父母と、そしてジュリアンへ と飛び切りの笑顔を向ける。
凛々しく整った眉の下には、南仏の蒼い海を映したかの如き鮮やかな青い瞳。
品よく下を向いた高い鼻梁、そして白い歯が零れる生き生きとした唇。
まるで石膏像の様に滑らかな額からは、豊かな金髪がウェーブを描きながら襟尻まで落ちている。
まさにケチの付け様の無い美貌の皇太子に「グレコリー命」の筈の母まで瞳をハートにしていた。