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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第20章
「それで?」
「ん?」
「ヴィヴィ。今、幸せかい?」
「…………、う~~~ん」
麦わら帽子を乗せた頭を、これでもかと傾けて唸る孫娘に、祖母はニヤニヤしてその顔を覗き込んでくる。
「あらあら、ヴィヴィったら、満更でも無さそうな顔をしているわ」
「え~~~、そう、なの、かなぁ?」
今の自分が浮かべている表情が判らなくて、戸惑ったヴィヴィはむにむにと表情筋を解してみせる。
果たして
幸せ、なのだろうか?
今の自分は――
目の前の慈悲深い菊子は孫娘がこの世に生まれ落ちた瞬間から――
否、ある一件以降は更に、心の底からヴィヴィの幸せを願い続けていてくれているけれど。
……幸せ……、になんか、なれるのかな?
というか、なって良いのだろうか。
兄とその家族を不幸にさせた、元凶の私が……
傾げていた金の頭が元の位置に戻り、やがてそれは俯いていく。
末孫と会えずに泣いた母は、今は娘のボーイフレンド登場に途轍もなく歓喜しており、周りの皆も手放しで祝福してくれている。
けれど――
本来ならば、日陰者として己の犯した罪を償う為に生きて行くべき人間が、あろうことかフィギュアの世界では眩いスポットライトを浴びている。
そのギャップは、兄に鞭を与えられていた時からヴィヴィの中に巣食い始め、生み出された乖離は今でも心身を蝕んでくる。
そして、匠海――
今回、フィリップを両親に紹介してしまった事で、日本へ帰国した父や母は、遅かれ早かれ長兄に「貴方の妹の彼氏を紹介された」と報告するだろう。
その事で匠海がヴィヴィ達に対し、何か行動を起こす事は流石に もう無いとは思う。
何故なら自分は “あの兄” から「離別」の言葉が受け取ったのだから。
けれども、嬉々とした母からその情報を知らされた、その時の匠海の気持ちは――?
今更 自惚れるつもりはないが、自分の軽率な行動は少なからず兄を傷つけるのではないだろうか。