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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第20章
「………………」
麦わら帽子の作り出す影の中、無意識の内に眉間を寄せていると、
すっと横から現れた腕が、赤く色づき まさに食べ頃の一粒に伸ばされる。
「おや、こんなところに美味しそうなトマトが」
「え……? あ……、これは、私のっ」
咄嗟に主張したヴィヴィに、背後からトマトを摘み取ろうとしていたフィリップが手が止まり、やがて「ヴィーの?」と尋ねながら顔を覗き込んでくる。
「あ……、いや、私の、って言うか……」
ばつが悪そうに傍らの祖母を見下ろしたヴィヴィに、相手はにっこりと ほほ笑み返してくれる。
「ヴィヴィにいつもお日様のように笑っていて欲しくて、私が育てているのよ」
「そうか。ふうん、ヴィーはこんなにも周りに愛されていて、本当に幸せ者だな~~」
「え……?」
「明るいご両親に、素敵なおじい様におばあ様、クリスもそうだし、ヴィーの周りには笑顔が絶えないだろう?」
そう言いながら麦わら帽子の上からポンポンと撫でられ、ヴィヴィは戸惑いの表情を浮かべる。
「それに、この俺様にも とことん愛されているしな! こんな幸せな果報者、他にいないだろう?」
立てた親指で己を指さし主張してくる相手の自己肯定感の高さが、今は何故か羨ましく思えた。
「ほっほっほっ、フィリップは面白い人ねえ」
「ありがとうございます。よく言われるんですよ。「ユーモアがあって、ウィットに富んでいて、君といると世界が目映く素敵に見える」って」
「自分で言うな!」
まるでボケと突っ込みの様な若い二人のやり取りに、愉快そうに皺を濃くした菊子。
「ふふふ。フィリップ、この黄色いトマトも食べ頃よ?」
「本当だ。俺に「食べて下さい!王子様!」と言わんばかりのハリとツヤ。まるでヴィーのようですねえ」
際どい会話をしながら和気藹々とトマト狩りをする祖母と今彼。
そんな二人の様子に、先程まで瞳を曇らせていたヴィヴィは、気持ちの持って行き場を失われたような、問題をすり替えられたような、当惑の表情を浮かべるのだった。