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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第21章 .
「ふふ。クリスも髪の毛伸ばす? で、私がショートカットにしたら面白いかも?」
寝転がりながら髪を解いたヴィヴィは、外したシュシュをクリスの頭に乗せてみるが、振り落とされてしまった。
180㎝大のヴィヴィっぽく髪を伸ばしたクリスと、160㎝大のクリスっぽく髪をショートにしたヴィヴィ。
二人が並んだ状況を想像したヴィヴィは、これはこれで良い感じだと思ったが。
「絶対にイヤ」
クリスはそうきっぱりと否定したのだった。
長髪の兄を想像した妹は、頭の中で「中世ヨーロッパの宮廷服に身を包んだクリス」に妄想を働かせる。
(クリスは直毛だから、綺麗に髪が伸びると思うんだよね。だから後ろで一つに束ねて。それで、首元には優雅なレースでしょ? 足元はそうだな~~。クリスの脚線美を生かすべく、白ストッキングにルイ14世ばりのハイヒール~~❤)
妹がそんな阿呆な妄想に浸っていると知る由もない兄は、解かれてもぼさぼさの髪を飽く事無く撫で付けていた。
音も無く梳かれていく、腰近くまである長い頭髪。
空想が抑えられず小さな顔をニヤニヤし始めたヴィヴィだったが、クリスが梳いていた指が不意に耳をかすり、
「ん……」
思わず漏れた声に、自分が一番驚いた。
水辺に一滴落とされた墨汁の如く、じわりじわり滲みを拡げ。
如何なる毒にも甘んじ、希釈せんとする清い水と、それら全てを拒むように澱のように沈んでゆく墨の濃さ。
それらは、何故か、
かつて知ったる “悦びのそれ” を彷彿とさせる音に取れた。
瞬時に跳ねたのは、妹の長い睫毛か、兄の鼓動――そのどちらだったのか。
双子の間に落ちる空気が、乾燥しがちな秋には不釣り合いなものに取って代わった気がした。
何かを確認するかのように再び耳朶に這わされた指先に、華奢な肩が誤魔化し切れぬほど震え。
薄く開いていた唇から、声にならない吐息が漏れる。
「……――っ」
(ク、リス……?)