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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第21章 .
驚きの表情を隠しもせず見上げるヴィヴィを跨ぎ、クリスが体重を掛けずに覆い被さってくる。
耳朶を伝っていた指先が付け根に到達し、一瞬離れたのち、今度は軽く折られた第二関節でなぞられていく輪郭。
見下ろされる双眸は、寸分違わず自分と同じ色で。
けれど、辿られる頬のラインには、間違いなく男と女の違いがあって。
顎をくすぐる様に親指で押された――そう感じた瞬間、それは間違いだと気付いた。
第二関節と親指が添えられた顎に施されたのは、軽く顔を背ければ簡単に解く事の出来る柔な拘束。
そして、衣擦れひとつさせず身を屈めてきたクリス。
躊躇するほど絡み合った視線はそのままに、互いの唇が触れ合う寸前まで接近した。
その時。
「……ふ……っ」
そこで苦笑の声だけを漏らしたクリスに、至近距離で兄の瞳を覗き込んでいたヴィヴィのそれに、さっと当惑が燻ぶる。
「……フィリップがいて、良かったね……」
「……え……?」
灰色の大粒な瞳が、兄に言われた事を探らんと、目の前の男の端正な表層を彷徨う。
けれど、いつも無表情の双子の兄は、今はそれに輪をかけ無の仮面で覆っていた。
「ううん、何でもないよ……」
唇に受け止めていたクリスの吐息が、熱を奪うように離れていく。
妹の上から退いた兄はヴィヴィの腕を取り引き起こすと、その額にいつも通り ちゅっと髪越しのキスを落とした。
「ふわぁ……。疲れた、眠い……。ヴィヴィ。コーヒー、淹れてくれる……?」
乱れた短い金の頭を無造作に掻き整える兄に対し、遅れてマットから立ち上がった妹は、一瞬 放心していたが。
「へ……? あ、うん。……喜んでっ!!」
そう勢い良く返事したヴィヴィは、一目散とリビングを通り抜けキッチンへと逃げ込んだ。
その背後からはクリスの、
「……なんで、居酒屋風……?」
という突っ込みだけが追い駆けて来た。