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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第21章 .
ヴィヴィが大学を卒業し、クリスが博士課程を休学した次の週、双子の姿はフィンランドにあった。
五輪シーズンとなる今季、その初戦としてフィンランディア杯にエントリーしていた。
昨年に初出場したネーベルホルン杯と同じく、ISUチャレンジャーシリーズの一つであるこの大会に、双子はそれぞれ初参戦となる。
例年ならガラガラだという観客席が今年はほぼ満席らしいと、先ほど関係者から聞かされた。
それは双子の今シーズンのプログラムを「いち早く生で観戦したい!」というコアなファンが駆け付けたのもあるだろうが、それだけではなく。
女子シングルの出場選手の顔ぶれも、その理由の一つだった。
4回転ルッツ、4回転フリップを武器とする
エリーナ・コスティリョワ(15) ロシア
4回転サルコウ、4回転トウループを武器とする
ポリーナ・ブリホトナヤ(18) ロシア
上記の2選手が今大会のみならず、来年2月に開催される五輪で台乗りするであろうメンバーとして注目を集めているのだ。
先週に行われたネーベルホルン杯では、ジュニア上がりのティーンのロシア勢が表彰台を独占しており、今大会も同様になるであろうというのが大方の見方だ。
2025年9月28日――今大会の最終日。
昨日に男子シングルでの優勝を難なく決めたクリスは、本日15時から行われる女子シングルFSのバックヤードにいた。
ヴィヴィが公式戦で初の四回転に挑戦するこのFSは、正念場と言ってもいいところだが、それはクリスにとっても同じこと。
妹のジャンプ・コーチとして初めて公式戦に帯同している彼も、これがコーチ・デビュー戦としてその力量に注目が集まっている。
24時間べったりとジャンプ・コーチにサポートして貰える環境は途轍もなく恵まれているけれど、それらは表裏一体でもあり、当たり前だがヴィヴィのミスが兄の評価に繋がってしまう。
考えないようにしていたその実情が、試合前で不安定な心の中にふと巣食い、無意識のうちに呼吸が浅くなっていた。
そんな生徒の状況なんてすぐに察知してしまう敏腕コーチは さりげなく腕を取ると、人の往来の多い廊下から離れた一角に連れて行く。