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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第21章 .
壁に寄せ置かれた椅子に座るように促されたヴィヴィは、軽く息を吐きながら腰掛けた。
フィギュアシーズン中は、どこに行っても注目の的。
そんな経験は自身初の五輪で優勝して以降、いつもの事なのに。
三度目となる五輪シーズンの今、周りの視線がまるで刃のように突き刺さってくる気がするのは、己の鍛錬不足でしかないだろう。
「ヴィヴィ……」
「うん……」
「僕達って、世間でどう言われているか、知ってる……?」
「え……?」
隣に立った兄からの問いに、椅子に浅く腰かけたヴィヴィが、不思議そうに振り仰ぐ。
「難関大学にパスする頭脳を持ち、フィギュアの才能もあり、容姿にも恵まれ、あまつさえ莫大な資産まで――何でも持っている “完璧な双子” 」
「………………」
「そんなこと、全然無いのにね……」
打ちっぱなしのコンクリートの壁に凭れ掛かったクリスは、いつも通りの無表情でそう続けた。
「なんか、意外」
兄の言葉を受け、妹はその発言通りの表情を浮かべる。
「何が……?」
「クリスは “そんなこと” 気にしないのかと」
今、彼が口にした世間の評価通り、クリスは完璧な人間だと思う。
だがその本人は、何故か自己肯定感が低い。
それでも いつも良い意味でマイペースな兄の事なので、外野の声など気にしていないと思っていた
「コンプレックスの塊だよ、僕なんて……」
マスカラで彩られた瞳が微かに歪み、そして視線は兄の横顔からその胸、腹へと落ちていく。
そして、両腕を伸ばしたヴィヴィはクリスの腰に巻きつけると、シャツを纏った腹に顔を埋めた。
「……とことん優しいよね、クリスは……」
「え……?」
くぐもった妹のその声は、兄には届かなかったらしい。
「ううん、何でもない」
そう言って腰への抱擁を緩めたヴィヴィは、おもむろに兄の両手をそれぞれ拾い上げる。
(私という双子の妹が はなから存在しなければ、クリスはもっと、自分に自信を持てたんだろうな……)
こんなに妹の全てを背負い込んで、それでも何てこと無い顔をして普通に立っていられるクリスの懐の深さに、無力過ぎる自分はもう何も言えなくなる。