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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第21章 .

それでもその甘さに縋ってしまう自分は、しょうもなく狡い人間だ。

暖かなクリスの両の掌で、己の頬を包み込ませたヴィヴィ。

そして、その視線の先。

クリスの背後5メートル程向こうに、日本のテレビクルーらしき人物が、こちらにカメラを向けている事を認めた。

「………………」

まるでホットタオルに包まれたかのように心地よい、クリスの掌中。

うっとりとその気持ち良さを味わいながら目蓋を閉じたのも数秒、ヴィヴィはすっと視線を上げ自分に瓜二つの顔を仰ぐ。

「ね?」

「うん……?」

「キスして?」

「……え……?」

「私にキスして、クリス」

「………………」


だって

クリスだけは、私を裏切らないんでしょう?

私を独りぼっちになんてしないでしょう?

不安なの

怖いの

表彰台に乗れるかすら危ぶまれる試合なんて、シニアに上がってから経験した事なんて無い

だから今だけは

スケートをしている間だけは

私にクリスを独占させてくれたっていいじゃない――


懇願と言うには強制力のある声音でキスを強請る妹に、兄は抗う事無く上半身を屈めてきたが、

その薄い唇が押し付けられたのは、掌の中に納まった妹のそれではなく、その上の眉間だった。

「これ以上は、フィリップに殺される……」

肌に唇を押し付けたまま独白するクリスに、ヴィヴィは ぱちくりと瞬きしたのち苦笑を零す。

「……ふっ なにそれ」

そう突っ込みながらも、双子の兄と口付けをしなかった事に、どこかしら ほっとしている自分もいた。

倫理という一線を踏み越えた男女の末路なんて、嫌と言うほど解かっているから。

クリスの両手を解放してあげながら、ヴィヴィは最後に唇を重ねた相手――現・彼氏であるフィリップの事を思い出す。

「そういえば――」

「ん……?」

「この前ね、フィリップに「ピアノを教えてくれ」って言われてさ。あまりにしつこかったからさ、しぶしぶ教えたんだけど――」


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