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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第21章 .
『私、王子様って何でも出来るんだと思ってたわ……』
ピアノを奏でるにはもってこいな長い指も、美しく整えられた爪の先も、
何度教えても♪猫ふんじゃった♪すら弾けないなんて、宝の持ち腐れもいいところである。
これはヴィヴィの勝手な先入観だけれども、皇族といわれる人間ならば誰しも、ピアノはもとより、ヴァイオリン等の弦楽器の演奏技術を習得しているものだと思っていた。
なのに目の前の皇太子ときたら、乗馬以外は何も手習いが無いという。
これならば、ピアノに加えチェロ、更には乗馬すら一流だった “あの男” の方が、よほど王子様らしかったではないか。
若干呆れながらそう思ったヴィヴィだったが、次の瞬間には はたと我に返る。
瞬時に脳裏を駆け巡ったのは、
幼い妹を馬上に引き上げてくれた凛々しい兄の姿、
初めてピアノの連弾をしてくれた時の興奮、
そして、妹がピアノ伴奏した際、己の苦悩を投影するようにチェロを奏でていた、その横顔。
「……――っ」
幾重にも蓋をし、己の中から葬った筈の想い出達が、パンドラの箱から零れ落ちそうになり。
慌てて唇を引き結び前髪の下で眉を潜め、何とか頭の中から追憶を退ける。
そんなヴィヴィにはお構いなく、フィリップはカラッと笑い飛ばす。
『馬鹿だなあ、ヴィー。何でも出来る王子様なんて、絵本の中だけに決まってるじゃないか』
彼の声に何とか現実に引き戻してもらったヴィヴィだったが、まるで “白馬の王子様に恋する世間知らずな乙女” の様にあしらわれた気もして、若干ムッとしながら言い返す。
『世間一般の人々は、リアル王子に会う機会なんてそうそう無いんですけど!』
『おとぎ話はおとぎ話、俺様は俺様』
そう自信満々に言い切ったフィリップに、ヴィヴィはこれ見よがしに両肩を上げて呟いたのだった。
『俺様って……。貴方の自己評価の高さだけは、見習いたい所だわ』