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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第21章 .
舞台の幕開け――第1曲『序奏と情景』
これ以上無く凍てついたリンクに ひれ伏したヴィヴィを容赦なく突き刺すのは、トランペットやピッコロ等が奏でる氷の刃。
硬質に響き渡るE音――それを中心に構成されるフリギア旋法により、会場は一瞬にしてアンダルシア地方の “フラメンコ” 色に塗り替えられる。
片頬を氷に触れさせ、両腕を投げ出し伏せていたヴィヴィは、何者かに引きずり上げられる様に片腕を持ち上げながら立ち上がる。
その何者かの頭をこねくり回すように、己より高い位置に両腕を大きく纏わりつかせ。
しかし、はっと息を飲むと相手を突き飛ばし、逃れるように滑り始める。
「冒頭の4回転――6分間練習では両足着氷になっていましたが、本番では、どうかっ――?」
オーケストラが移調を繰り返す中、ステップを踏み分けたヴィヴィは思い切りよく踏み切った。
「ステップからの4回転フリップ……。うん、回り切りましたね!」
大歓声が巻き起こる中、曲は第4曲『登場』に切り替わる。
「次は篠宮の代名詞でもある、3回転アクセルからのコンビネーション」
衝撃的に連打される金管楽器に乗り助走に入る。
弦楽器の上昇音階、疾風のようなピアノのグリッサンドが相まり、この後の亡霊の登場を予感させる。
「スリー、カウンターからのアクセルジャンプ……。2本目の3回転ループも高さがありました」
余裕をもって着氷した その顔に宿るのは、成功による安堵ではなく、いよいよ迫りくる亡霊と対峙する怯えが色濃く出たもの。
曲は第5曲『Danza del Terror.〈恐怖の踊り〉』に移ろう。
フラメンコダンサーの足音を模した金管楽器の連打。
ジプシーバイオリンの開放弦に倣ったヴィオラの調べ。
夜な夜な己の前に現れる亡霊の登場に、両手で顔を覆ったヴィヴィは後ずさりながらターンし、凝視した相手を威嚇するかのごとく、開いた両腕を強張らせながら腰を落とす。
二度繰り返されるそのマイムに、枯葉の如き黒いスカートの裾から朱色の布地が印象深くはためいた。
「先日の札幌で初めて決めた、4回転トウループ――」