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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第3章
それからの出来事は、まるで絶命の間際に見る “走馬燈” の様だった。
――死ねなかったのに。
意識を取り戻した自分は、何故かクリスの部屋に寝かされていて。
傍に居てくれたダリルは、女装姿で。
「ヴィヴィ……。どこか痛いところ、苦しいところ、ある……?」
そう身体を気遣ってくれる彼に、うんともすんとも反応出来ず。
「リー……あの男は、連行される前に、全て話していったワ」
未だ信じられないという響きを滲ませた、ダリルの言葉。
他にも、
“男” を見たくないだろうから、クリスが席を外している事。
自分が意識を失っている間に、婦人科の医師が診察してくれた事。
エディンバラにいる家族には、クリスが連絡を入れたが、
ロンドンへの最終の飛行機、20:35の便が飛び立った後で間に合わず、
今夜はオックスフォードには辿り着けない事。
その他にも、言葉を選びながら説明してくれていたが、
「……ダリ、ル……、もう、疲れ……ちゃった……」
弱々しく発した、ヴィヴィのかすれ声に、
「ヴィヴィ……。ごめん、一気に喋りすぎたわネ……」
柔らかな声で謝ってきたダリルに、ヴィヴィは小さく頭を振って目蓋を閉じた。
「クリス、心配してるだろうから、気が付いたって教えてくるワ……」
そう言い置いたダリルが、腰掛けていたベッドから立ち上がり、
次いで聞こえてきたのは、離れて行くヒールの足音と、扉の開閉音。
ぱっと目蓋を開いたヴィヴィは、のっそりと起き上がると紺色のベッドを降り。
その脚は迷い無く、双子の兄のクローゼットへと歩み寄る。
静かに開いたそこから、1本のネクタイを拝借し。
そして向かったのは、先程ダリルが出て行ったばかりの扉。
『逝く、から……。ヴィヴィ、も……、すぐ、後、追うから……』
『だから、お、お願い……っ ヴィヴィと、ヴィヴィと一緒に、死のう……?』
あの時は、
本気で死のうなんて、
これっぽっちも思っていやしなかった。
『…………いいよ』
『……俺の首を絞めた後、どうやって、逝くつもり……?』
心中に同意したあの人は、そう言って。