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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第21章 .
「あとは、アルペンスキーとかな? まあ、モニャコの五輪派遣選手はたったの4名だけどw」と続けたフィリップは、そう言えば某公国の皇太子なのだった。
中身と肩書きが乖離し過ぎていて、その事実を忘れそうになるけれど。
「それはそれは、ご公務、お疲れ様で~~す」
(モニャコ女子選手を応援して、とっとと会場から去ってくれるなら、まあいいか)
労をねぎらいながらも、そう頭の中で算段をつけるヴィヴィに、フィリップが苦笑する。
「正直、久しぶりだけどね」
博士課程の最終年で多忙の彼は、中々公務にも就けぬ状況らしかった。
疲労の滲んだ目元を細め微笑するさまは、世の女性達には「アンニュイな微笑みを湛えたダヴィデ像様!」の如く、麗しく映るのだろうが。
ヴィヴィにとってフィリップの顔面偏差値は、へのへのもへじ(古)と同レベルでどうでも良かった。
二人分の茶席を整えていた朝比奈を玄関の呼び鈴が呼び、執事は柔らかな笑みを残し防音室を出て行った。
その後ろ姿をぼんやり見つめていたヴィヴィだが、客人がソファーに腰を降ろせば、そちらに視線を戻す。
未だ手にしたままだったヴァイオリンをケースに戻すと、ティーカップから漂う芳香に吸い寄せられるように、ワンピースに包まれた身体がソファーに向かい。
膝下まであるフランネル生地の裾を気にしながら、フィリップの前に腰かけた。
手にした茶器に口付けると、鼻腔に爽やかなローズマリーの香りが抜け。
そして恐らく柚子(ゆず)のジャムだろうか、仄かな甘みと独特の香りが舌の上を転がっていく。
「おいしい……」
「これは、東洋の柑橘?」
そのフィリップの問いに、恐らく日本の柚子だと説明すれば、もう一度口に含んだ彼は「お~~、日本の “わびさび” が感じられる味わい!」と適当な事を言い、屈託無く笑った。
その瞬間、ゆうるりと場の空気が解れたのを感じたヴィヴィは、内心首をひねる。
たった一杯の紅茶のお陰で、無意識に強張っていた肩から力が抜けたのは、
厳選した茶葉と巧みな技術、そして幼児の頃から自分を知る敏腕執事が成せる業のせいなのか。
はたまた、毎回ガクッとくるような言動ばかりしてくれる、目の前のこの男のせいなのか――