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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第21章 .

「…………、あの、さ……」

ぽつりとこぼれた呟きを、フィリップの「うん?」という何でもない相槌が拾い上げる。

「あの時――。私……、もし、別れなかった、としてもさ……」

「 “お兄さん” と?」

「うん……」

今から9ヶ月前――元義姉が突きつけた最後通牒により、やっと別れを決意し、匠海と離縁した自分。

だが、もしあの一件が無かったとしても、

「たぶん、だけど。きっと今頃……、結局は “私の方から” 別れを切り出していたと思う――」

「そりゃまた、どうして?」

くっ付いたり離れたりを繰り返し、もはや腐れ縁の様な兄妹の状況を伝え聞いていたフィリップは、さも意外そうに片眉を跳ね上げる。

「うん……。今シーズンに入ってからさ、私、ぜんぜん優勝出来なかったじゃない?」

「……そうだなあ~~」

「チームの計画通り調整は上手くいっていたし、皆を信じてついていけば大丈夫って、そう、自分に言い聞かせてはいたんだけど、ね……」



昨年の五月――双子の誕生パーティーの席で飛び出した、クリスの爆弾発言をきっかけに、ヴィヴィの四回転への挑戦が始まった。

だが、齢23で四回転を始めるのは、あまりにも無謀すぎた。

そもそも「ジャンプの回転を増やす=1階から飛び降りていたのを2階からに上げる」ようなものであり。

技を習熟する過程の反復練習で過剰な負荷がかかり、足首、膝、股関節などに障害を負うリスクも高い。

特に女子選手は跳ぶために無理な減量を重ねる選手もおり。

その結果、栄養が不足し女性ホルモンが減少 → 無月経 → 骨粗しょう症や疲労骨折の危険性も高まる。

それに、運良く大きな怪我を負わなくとも、日々蓄積した疲労が痛みに繋がることもある。

下手をすれば五輪を目指す前に、選手生命を絶たれる状態に追い込まれることだって、充分にありえたのだ。

ヴィヴィはもちろん、それらを判っていた。

これまでのフィギュア界を見続けてきて、嫌と言うほど理解していた。

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