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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第21章 .
それでも、あの日――
『ヴィヴィ、僕を信じて。僕ならば君を表彰台の頂点に乗せてあげられるよ』
そう言って妹を鼓舞してくれた双子の兄の手を、ヴィヴィは迷いなく取った。
何故ならば――
昨シーズンのエレメンツは今の自分の最難度のものばかりで、これ以上 構成を弄ることすら叶わない。
“アクセルを含めた3回転、その完成度で勝負する”
知らず知らずの内に、己で築いてしまっていた その “限界の壁”
それを問答無用で叩き壊してくれたクリス。
そしてそれを出来たのは、やはり双子の兄にしか有り得なかったからだ。
だから、今シーズンの初めから外野に「四回転本当にやるの?」「危険すぎるし、両刃の剣だよ!?」と散々忠告されたが、それでもヴィヴィは、きっぱりと己の気持ちを口に出来たのだ。
『自分はクリスについて行くのみ。兄の事を信じているし、私の総てを知り理解してくれているのは、彼だけだから』
「でも実際は、そうじゃなかった――?」
そう深層のところを容赦なく抉ってくるフィリップに、ヴィヴィは素直に頷く。
「うん……、やっぱり、弱ってる時は、ね」
膝の上に置いていた両手を薄い腹の前でギュッと纏めたヴィヴィは、大きな瞳をローテーブルの上に彷徨わせる。
「本当にこれで五輪までに間に合うのかな?って……。一歩でも躓いたら、何もかも総崩れになっちゃうんじゃないかな?って……。まあ、弱音を吐きまくっていたのよ、心の中ではね。もう自分にも、周りにも、もちろんクリスにも猜疑心でいっぱい……」
「まあ、不安になって当然だよな」
珍しく腹の中をさらけ出し尽くしてくるヴィヴィにも、フィリップはそう同調しながら聞き役に徹してくれていた。
「で、さ……。初戦から3試合、ずっと優勝できなくて、8歳も下の子供達にもホント敵わなくて……。やっぱり、プライド的にもズタボロだった訳ですよ。これでも一応は、ワールドスタンディング(世界ランク)1位なもんでね」
「そうは見えなかったけどね」
「だって、必死に隠してたもん。恥ずかしすぎるでしょ、こんな23歳」
拗ねながらも恥ずかしそうに頬を膨らませ俯いたヴィヴィに、フィリップは「フグかw」と笑っていた。