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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第21章 .
「でも、さ……。 “一人” だったから、耐えられた」
「ん?」
「もし……まだ関係が続いていたとしたら、私、八つ当たり――は、しなかったろうけれど。うん……。たぶん、虚勢を張り続けていただろうな、と思って」
「お兄さんの前で――? どうして?」と、意外そうに見つめてくる今彼。
「………………」
10代の――まだ匠海が結婚する前の、両想いと信じ切っていたあの頃であったら、ヴィヴィは心の奥底を兄にさらけ出す事が出来ただろう。
だが、匠海が妻子を持ち、自分が愛人となって以降、ヴィヴィは兄に弱みを見せることが出来なくなっていた。
精神的にも金銭的にも自立した女性になり、兄とその家族に負担をかけないようにしなければならないと、自分を戒めていたし(そもそも愛人という存在がいるだけで、家族には負担だったのだけれど)
己の弱みを見せたが最後、また自分は兄に寄り掛かり彼の心を拘束し。
勝手に己の総てを相手に差し出し「これこそが見返りを求めない純愛だ!」――と悦ぶ莫迦に成り下がりそうで、怖かった。
途轍もなく恐ろしかったのだ。
だから――
「弱みをね、見せられなくなってた」
「……そうか」
「だからね、今シーズン負け続けていても「私、平気だし」って、ずっとお兄……あの人の前で平気ぶって、強い女を演じてたんだろうなって。で、結局、言動と心の不一致に苦しんで、しんどくなって愛人関係も破綻しただろうなって……」
そこで言葉を区切ったヴィヴィは、お行儀は悪いが、自分を守ろうとでもするかのように、ソファーの上で両膝を胸に抱え込む。
「それに、そんな不安定な状態で試合を重ねていたら、たぶん、フィギュアも共倒れになってたと思う。五輪の内定すら貰えていなかったかもしれない」
「………………」
「だからさ、どう転んだって、終わってたんだよね――」
あの元義姉が引導を渡そうが渡さなそうが、匠海と自分の関係は終結を迎えたのだ。
何故なら、ヴィヴィは愛人となった時に、これだけは揺るがないという決意をしていたから。
兄かフィギュアかと決断を迫られたら、自分は迷いなくフィギュアを取る――と。