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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第22章
実況席の2人が熱弁をふるう眼前、ショーン・コーチ、クリス・ジャンプコーチに送り出されたヴィヴィは、己の名前がコールされる中、呆気無いほどすぐにリンク中央に着いた。
『さあ――勝負はもう始まっているよ、ヴィクトリア選手。エリーナ選手からの “王手のプレッシャー” に耐え、自分の滑りが出来るかな――?』
『うむ、お手並み拝見だね』
右の耳に両掌を添えたヴィヴィが目蓋を下してすぐ、広大なリンクにSP使用曲が流れ始めた。
『曲は la vie en rose――薔薇色の人生』
流れ始めたレコードの音に耳を傾ける様に、リンク中央に立つヴィヴィは微動だにせず、視界を閉ざしている。
薄桃色と薄紫色のシフォンを重ねた衣装は、まるで蕾の綻び始めた薔薇の如き可憐さを。
そして背中から胸にかけて伸びる薔薇ツルの灰色の濃淡は、愛らしさの中にも艶やかさをプラスしていた。
『振付は、ヴィクトリア選手と長年タッグを組んできた、あの 賢二 宮田』
Des yeux qui font baisser les miens
私をじっと見つめる 貴方の瞳
Un rire qui se perd sur sa bouche
口許から消える 淡い微笑
薄紫色のアイシャドーが際立つ目蓋から現れたのは、相手の心を見透かす鋭さを湛えた灰眼。
それを緩めながらターンを重ねたヴィヴィは、ジャッジ席の目前まで滑り寄ると、両腕で顔を隠し。
そして優雅に取り払われた腕の陰からは、万人を魅了するような極上の微笑みが現れる。
Voila le portrait sans retouche
これが 貴方の本当の姿
De l'homme auquel j'appartiens
私が心から虜になった人――
Quand il me prend dans ses bras,
貴方が私を腕に抱き寄せ
Il me parle tout bas
低い声で そっと囁く時
Je vois la vie en rose,
私の人生は 薔薇色になるの
『3回転フリップ』
『うん、高いGOEが出たね』
両手を上げながらフリップを跳んだヴィヴィは着氷後の流れを殺さず、エディット・ピアフの力強い歌声に心地良く身を委ねていく。