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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第22章
『Bravissimo――っ!! 素晴らしいっ 見事、みごとっ やってのけたね!!』
『ヴィクトリア 篠宮、ここにあり! と、世界中に知らしめる滑りだったよっ』
ヴィヴィのポーズが解けるよりも早く、会場はスタンディングオベーションを送る観客が立ち上がっていた。
ふっと息を吐いたヴィヴィの顔が画面一杯に映し出され、そして安堵した表情で観客へ礼を送り始める。
『見てくれ! 速報値が凄い事になっているっ』
『現在トップのエリーナ選手と ほぼ僅差っ これは十分、FSで巻き返せるね!』
画面上ではスロー映像で、各要素のプレイバックが映し出されていく。
『いやぁ……。彼女が “あの” 鮮烈なデビューを果たした8年前の五輪……。そこで披露されたサロメもそうだったけれど。……彼女のプログラムには常に誰かが居る。誰かと一緒に滑っている――そんな物語がある』
『そうだね。全方位――360度から観られるフィギュアという競技において、ヴィクトリア選手は本当に魅せ方を会得していて。彼女が視線を動かしただけで、あっという間に場を支配してしまう』
解説:アンジェロの言葉に、実況:マッシミリアーノも同意を示す。
観客はというと、スローで映し出された3回転アクセルの跳躍の幅に、更に歓声を上げていた。
『確かにエリーナ選手や、これから滑るタイシア選手の様な “ロシアの若手” の方が技術力も高いし、彼女らは年齢や経験年数の割に表現力も申し分ない。けれどもね……』
そこで言葉を区切った解説者は、ひとつ咳払いをし。
『ヴィクトリア 篠宮――彼女がもつストーリー性の前には、うん。申し訳ないけれど、誰もが霞むんだよね』
そう このグループの第一滑走者に対し、最大の賛辞を送ったのだった。
たが。
場内の大画面ビジョンに、ロイヤルボックスで立ち上がり、選手に惜しみない拍手を送っている人物が、数秒 映し出されると――
『ハハ! これはやはり “以前ウワサのあった彼” との、熱い恋を滑っているのかな?』
ちゃっかりした実況席は、イタリア人らしく陽気に茶化すことも忘れなかった。