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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第3章
ここ数日、兄の目の前ではなるべく肌を晒さない様にしてきたのに、
ここに来ていきなり、膝下丸出しのローブを着るのはちょっと……。
まあ、今纏っているルームウェアも、半袖半ズボンだが。
「それとも、俺のシャツでも貸そうか?」
「う、ううん……」
匠海の服なんて、絶対に借りられない。
申し出を断ったヴィヴィは、しぶしぶ元来た廊下を戻った。
キッチンに隣接するバスルームで、シャワーを浴び始めたヴィヴィ。
顔に当たる暖かな湯に、そういえば昨日「死ぬ死ぬ」と騒いでいた はた迷惑な自分は、
髪なんて洗っていないんじゃないかと思い至り。
結局、頭を洗い終え、身体を洗い始めたヴィヴィは、
掴んでいた泡まみれのスポンジをふと止めた。
「………………」
灰色の瞳が、禍々しいモノを見据える様に、ある一点に注がれる。
両の手首に残る、赤くなったそれは、拘束の痕。
昨夜の記憶がフラッシュバックしそうになり、ヴィヴィはぶんぶんと濡れた頭を横に振る。
(なに、浮足立って……)
自らの命を絶つ――。
その覚悟は、本物だったのに、
いざ、兄を目の前にして、我を忘れ喜んでしまっていた、どこまでも愚かな自分。
(もう……。充分じゃない……)
最後に兄に構って貰えた。
手料理も振る舞って貰えたし、
暖かい言葉も笑顔も向けて貰えた。
あまつさえ、抱っこまで――。
「………………っ」
掴んでいたスポンジから、ぽたりと泡の塊がタイルへと落ちる。
己の死を覚悟した瞬間、自分は兄の事を想った。
そして、その最期の望みは、
今――叶えられたのだ。
(もう、みじめったらしく、この世に執着するのはやめなさい……)
そう自分に言い聞かせたヴィヴィは、ボディーソープを足し直し、また全身を洗い始めた。