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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第1章  

「ヴィヴィ、どうした?」

 氷の上、スケート靴を履いて他の選手を見ていたショーン・ニックス――双子のお爺ちゃんコーチが、

 リンクに降りて来たまま、突っ立ってばかりのヴィヴィに声を掛けて寄越す。

「あ、すみません。何でもないです」

 ヴィヴィはそう発し、ぷるぷると金の頭を振って気持ちを切り替えると、エッジカバーを外して氷の上へと滑り出した。




 一旦屋敷へ戻り休憩した後、

 夕刻、双子はまたリンクへと戻って来ていた。

 付属設備であるレッスンスタジオで、ダンスレッスンを受ける為に。

 昨年の5月頭に渡英した双子だったが、
 
 クリスは10月半ばから大学が始まるまで、時間があったし、
 
 ヴィヴィは翌年の10月まで(編入準備はあるが)時間がたっぷりあった。
 
 よって双子は渡英早々、タンゴのレッスンを受け始めていた。

 タンゴには、主に2種類ある。

・本場アルゼンチンで発達した アルゼンチン・タンゴ

・ヨーロッパを中心に発達した コンチネンタル・タンゴ

 両者の違いを簡単に言えば、

 コンチネンタル・タンゴは、社交ダンスで男女が距離を取り、ホールドを組んで踊るのに対し、

 アルゼンチン・タンゴは、男女がぴったり密着して踊る。

 そして双子は、下記の通りに応用することにした。
 
 ヴィヴィ SP → アルゼンチン・タンゴ
 
 クリス  SP → アルゼンチン・タンゴから派生したフラメンコ

 更に毎年参加している、ヴィヴィの憧れの浅田 真緒主催のTHE ICE 2023(アイスショー)から、今年もオファーが掛り、

 恒例の双子プログラムでも、アルゼンチン・タンゴを取り上げることになった。

 更に更に――、 

 この夏、めでたく結婚を迎える羽生(はぶ)結弦(29)から、

『なんか風の噂で、双子がタンゴ習い始めたって聞いたんだけど? もちろん披露宴で、1曲披露してくれるよねえ?』

 そんな驚きのオファーまで舞い込み。
 
 よって双子は予想以上に熱心に、アルゼンチン・タンゴのレッスンに励む事になってしまった。

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