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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第1章
4日後には日本へ渡る双子にとっては、本日がタンゴの講師を招いての最後のレッスン。
羽生の披露宴で踊るのは、リベルタンゴ。
フィギュアでもよく用いられる、アストル・ピアソラ作曲の有名曲だ。
「じゃあ、頭から通してみようか」
男性講師のその言葉に、女性講師が音楽をかけ始める。
バンドネオン(アコーディオンの一種)が奏でる、どこか哀愁を帯びた前奏。
右手で黒の帽子を押さえ、俯くクリス。
その背後から伸ばされていた細い両腕は、妖艶に胸と腰の上を這って行き。
背後から現れたヴィヴィは、薄い唇でふっと弧を描く。
ターンしながらクリスの胸に収まったヴィヴィの腰を、撫でていた大きな両手。
奏で始めた弦の響きに反応し、2人の両腕が揃って上へと伸ばされていく。
「そういいよ、緩急のメリハリ、きっちりつけて!」
金色の髪の縁取りを伝いながら、キャミソールから剥き出しの肩をなぞっていく、大きな掌。
切れのある動きでヴィヴィの腰を捉え、妹の身体を外へ向けて回転させる。
軽やかなターンを繰り返すヴィヴィの手を掴み、双子はホールドを組んだまま腰を落とし、
互いの片脚を両サイドにめい一杯広げ、熱く見つめあう。
上半身を起こしたのち、互いに踏み込むステップ。
「クリス! トライアングル・ベース、意識しながら……、床を掴むようにクイック、クイック、スロー……そう」
「ヴィヴィ、身体の中心線を意識して! たまにぶれてるよ?」
それぞれの講師の指摘を意識しつつ、
クリスを見つめながら、その長身を色っぽく一周したヴィヴィを、
兄が華奢な両肩を上から押し下げるように、掌を置いて腰を落とさせていく。
スカートから剥き出しになった横へ延びた細い脚を、
踝から膝へ、膝から太ももへと、クリスの細く大きな掌が辿っていく。
そのまま振付通りに踊っていた双子を、男性講師が止めに入る。
「あ、ストップ……。そうだな、今のところ、クリスはヴィヴィを右手だけでホールドして……」
「はい」
クリスの腕は力強く そして労わりを持って、ヴィヴィの左腰を支えている。
「で、空いた左手で、帽子のふち、撫でてみようか?」
講師の助言に、鏡の中のクリスが黒帽子のふちを辿りながら、合わせて流し目を送っていた。