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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第3章
「……挿れ、て……」
静かなベッドルームに、掠れた懇願が落ちる。
「うん?」
聞こえた筈なのに、そう確認してきた兄に、
妹は背けていた顔をゆっくりと元に戻し、
「……ヴィヴィ……疼くの。お兄ちゃん、掻き回して……?」
そう、新たな禁忌を呼び込む台詞を口にした。
あんなに五月蠅かった心臓は、今や鼓動を忘れたかのように静かだった。
「ああ、いい子だ――」
妹の決意をそう褒めた兄は、満足そうに微笑み。
柔らかく頭を撫でた後、何故か妹の傍を離れて行く。
一瞬、不思議そうな表情を浮かべたヴィヴィ。
しかし、匠海がベッドサイドの箱に手を伸ばしているのが視界に入り、
「お兄ちゃん」
そう、兄を呼び止める。
「ん?」
すぐに振り返った匠海に、ヴィヴィは少し甘えた声音を舌に乗せた。
「避妊、しないで?」
「え?」
「飲んでるの、ピル」
そう懇願した瞬間、
背後の湖がひたりと、自分へとにじり寄った気がした。
「ヴィヴィ。お兄ちゃんの全部、中で受け止めたいよ……」
昔は、必要に迫られなければ、
兄妹は何も隔てるもの無く、互いの全てを与え合ってきた。
一緒に達した時の、何物にも替え難い恍惚を思い出し、
胸の奥がきゅうと甘く軋み、薄い唇が綻んだ。
「嘘、だろう?」
兄の主語を欠いた問いに、ヴィヴィは「え?」と短く問い直す。
けれど、先程まで嬉しそうだった匠海が、
今は何故か、真剣な眼差しで自分を見返していて。
「ヴィクトリア。……ピル、飲んでないな……?」
兄の追及に、小さな顔に浮かんでいた微かな笑みがふっと萎んだ。
「……お前、まさか……」
そこで言葉を途切らせた匠海は、さっとベッドから降り。
すぐに避妊具を装着して、ヴィヴィの傍へと来てくれた。
寝ころんだままの小さな顔を、優しく包み込んでくれる大きな掌。
暖かくて気持ち良くて、うっとりと瞳を細めれば、
こつりと合わされた互いのおでこの下、
真剣に自分を覗き込んでくる、一対の灰色の瞳があって。