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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第3章   

「凄いな、ヴィクトリア……っ まるで処女のように狭いよ」

 自分を覗き込んでくる匠海の瞳が、熱に浮かされた危うさを孕んでいて。

「……っ おにぃ、ちゃ……っ」

 自分も今、同じ瞳をしているのだろうかと、手首に挟んだ兄の首に力を込めた。

「あんなに俺のもので、何度も貫いては路(みち)を付けてあげたのにな」

「……~~っ」

 兄のその言葉に、ヴィヴィの心に愛おしい記憶が鮮やかに甦る。

 恋人だった匠海は、いつも優しく、時に激しく愛してくれた。

 『鞭』を与えられた辛い期間を乗り越えてから知った、心を通い合わせた行為は、

 ただただ、幸せで――。
 
 本当に、幸せ過ぎて。

 だから、

 別れが訪れた後、その何倍も自分を苦しませた。

 やがて、こつりと行き当たりに何かが当たって。

「ん……、おに、ちゃん……?」

 ほっと息を吐きながら兄を見上げれば、

 まだ苦しそうな表情を浮かべた匠海が、こくりと頷いてみせる。

「ヴィクトリア……。ずっとこうしたかった――」

 兄の喜びと安堵を滲ませた声音に、薄い胸がずきりと痛み。

 もう離したくないとばかりに、抱き寄せられる上半身に、細い咽喉が締まった。

「……~~っ」

 匠海が口にしてくれた想いは、ヴィヴィも同じ。

 兄に抱かれたくて、愛し合いたくて、想いを分かち合いたかった。

 その気持ちは嘘じゃない。

 嘘じゃない。

 けれど――。

 大きな瞳にぶわりと盛り上がった、熱い涙。

 それらを止めたくても、

 ぼろぼろと零れ落ちる涙を堰き止める術さえ、今のヴィヴィは見失っていた。
 
 もう何も考えられない。 

 頭の中には幾つもの感情が溢れ返って、こんがらがって、ぐちゃぐちゃで。

 どこから手を付ければ良いのか、その糸口すら見つけられなくて。

 けれど、

 自分の躰だけは、途轍もない幸福に酔いしれていて。
 
 そして、この瞬間、

 自分は何十人もの人間を裏切ったという事実だけは、

 厭と言うほど鮮明に浮かび上がってきて――

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