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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第1章  

「……1口……?」

 正に舌なめずりでも始めそうな上目使いで、そう確認するヴィヴィに、

「う゛……。う、うん。やっぱり1口で……」

 何故か返答に詰まったクリスだったが、やはりそこは妹の事を思い、念押ししてきた。
 
 その途端。

 金色の頭が俊敏に動き、はぐっ と物凄い勢いでシューに齧り付き。

 そしてその後には、小さく噛み付かれたシュークリームと、薄い唇の端にカスタードを付けたヴィヴィがいた。

「ぶはっ そんなに焦って食べなくても!」

 隣で見ていた柿田トレーナーが、野生動物の如き瞬発力を見せたヴィヴィに爆笑し。

 周りのリンクメイト達も、ケタケタ笑っていた。

「タンゴ習うと、日常でも色気が出てくるらしいけど?」

「ああ、ヴィヴィに関しては皆無だな。あははっ」

 周りにそうからかわれながらも、唇に付いたカスタードをぺろりと舐め取ったヴィヴィは、

「ふんだ……。どうせぇ……」

とガキっぽく薄い唇を尖らせた。

 一応、今年の5月で21歳になったのに、相変わらずなヴィヴィは、スケート靴を履き終えて氷の上へと乗る。

 でも何と言われようが、タンゴを踊るのは好きだ。

 技術的にも高度でやはり難しいが、相手を思いやりながら相手からも思われながら、

 2人で気持ち良く踊る事は、やはり楽しくて。

(後は、男女の駆け引き的なものを、もっと表現出来るようにならないとな……)

 今シーズンのSPであるタンゴを披露するまで、あと3ヶ月とちょっと。

 ヴィヴィはやる気に燃えているのであった。







 その2日後、6月27日(火)に行われたセント・エドモンド・ホールの正式なディナーには、ヴィヴィも保護者として参加する事になった。 

「んっと、これでいいかな?」

 ベアトップで薄紅色のタイトなワンピースは、胸から上は薄紅色のシフォンでホルターネックとなっており。

 これに黒のジャケットを羽織れば、フォーマルでもいけるだろう。

「はい、お嬢様。とても素敵ですよ」

 青い瞳を細めたリーヴが、ジャケットを羽織る際に乱れた髪を、櫛で直してくれた。

「ありがとう。クリスは用意出来てる?」

「ええ、既にリビングでお待ちですよ」

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