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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第3章   

 ディナーを採り終え、少し経ち。

 ヴィヴィは自分に腕枕をし、時折 額に唇を押し付けてくる兄を見上げていた。

 時間というものは、常に残酷で。

 先ほどまで照明を点けずとも明るかった筈なのに、

 天井まで届く窓ガラスからは、もう日の光どころか、紫色の夕闇が差し込み始めていた。

「……何時に、出るの?」

「ん?」

 その短い問い掛けでは、兄には伝わらなかったらしく。

 ヴィヴィはゆっくりと瞬きをすると、薄い唇を再度開く。

「ここ……、何時に出発するの?」

「どうしてだい?」

 腕枕をしていない方の指の背で、頬をつるりと撫でてくる匠海に、ヴィヴィはきっぱりと口にした。

「出る前に、バスルーム、使いたいの」

 今の自分の躰にはきっと、匠海の香りが染み付いている。

 それも、普通の兄妹では有り得ないくらいに、濃厚に。

 きっと今頃、オックスフォードの屋敷には、早朝便で駆け付けたであろう両親が待っていて。

 もしかしたら、他にも心配した親族も駆け付けているかも知れない。

 そして、匠海の妻・瞳子と、その息子・匠斗も――。

「………………」

 自分にとっては、人生最期の過ち。

 そして最期に見せてもらった、舌も痺れるほどの甘露な夢。

(ごめんなさい……。

 もう、返すから。

 お兄ちゃんを、返すから……。

 そして、その責任も、ちゃんと――)

 自分が裏切った家族の面々を思い出し、思わず眉を潜めたヴィヴィ。

 なのに、

「お風呂、一緒に入ろうか」

 逃れられない現実を受け入れようとする妹に対し、

 同じく罪を重ねた筈の目の前の兄は、異常にも見えるほど、いつも通りで。

「……え……?」

 思わず聞き返してしまったヴィヴィに、

「嫌か?」

 そう尋ねながら、切れ長の瞳を細めた匠海はきっと、

 妹が嫌がるだなんて、これっぽっちも思っていないのだろう。

「………………」

 大きな瞳がその揺れる胸の内を表すように、兄の色素の薄い肌の上を彷徨う。

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