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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第3章
兄妹の間には白くモコモコの泡が浮かんでいて。
自分ではほとんどバブルバスにしないのだが、久しぶりに入ると、やはりちょっと心が躍って。
しばらく泡で、色んなものを造って遊んでいたヴィヴィ。
匠海はそんな妹を、ちょっかいを出して見守っていたのだが。
「お兄ちゃん……」
急に表情を引き締めた妹に、匠海は「どうした?」と顔を覗き込んで来た。
「……さっきの、薬の成分、教えて……?」
そう尋ねたヴィヴィの表情は真剣だった。
「どうして?」
「……本当にドーピングが大丈夫か、自分で確かめたいの」
数時間前。
匠海は自分に媚薬を盛った。
その際、
『大丈夫、成分的にはドーピングに引っかからない』
と言っていた、兄の言葉は信じたいが、
ヴィヴィはこれでもトップアスリート。
自分の身体に関する事は、己で本当に大丈夫かどうかを確認して安心したかった。
まるで匠海の事を信用していない様な言動をし、少し気まずいヴィヴィに対し、
目の前の兄は、何故かホッとした表情を浮かべていて。
「え……? な、何?」
予想外の反応に戸惑い尋ねれば、
「いいや。何でもないよ」
そう言って苦笑した匠海に、きゅっと鼻を抓まれてしまった。
一瞬、頭の中で首を捻ったヴィヴィだったが、
(……あ……。死ぬ気、なのに、何で今更……、ドーピングの心配、なんか……)
自分という人間の大部分を占める、フィギュアスケート。
歩く前から氷の上に居たヴィヴィにとっては、何をするにもまず「スケートに影響しないか?」というワンクッションが入る。
自分にべっとり染みついた習慣に、何とも言えない表情を浮かべ俯いた妹の、その薄い肩。
ちゃぷりと水音を立て湯をかけた兄は、微苦笑を交えながら事実を述べた。
「大丈夫。あれは、ただのゼリーだ」
「え……?」
(ゼリー……?)
きょとんと目の前の兄を見上げるヴィヴィに、匠海はにっこりと怖いくらい満面の笑みを浮かべていて。
「濡れにくい人が使うもの。媚薬の成分は何も入ってない」
兄のその説明に、ヴィヴィの脳裏には、
以前『鞭』を与えられていた時に使われた、潤滑剤の記憶が甦った。