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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第3章   

 だから、気付くのが遅れた。

 兄の少し大きめの唇が、また自分へと寄せられていたのを。

 ちょんと互いの鼻の先をくっつけられ、思わず腰を引けば、

 肩に置かれていた両手が、細い二の腕の上をするりと伝う。

 やがて、しっとりと押し当てられた唇。

「………………っ」

 兄と唇を触れ合わせるのは、

 あの悪夢の五輪に旅立つ前日以来――で。

 あんな濃厚な性行為をしておきながら、それでもヴィヴィは、

 ずっと唇だけは、奪われるまいと死守してきたのに――。

「馬鹿。可愛かったよ、ヴィクトリア」

 表層を触れ合わせただけで唇を離した兄に、

「……え……?」

 ヴィヴィはもうキスの事に頭がいっぱいで、何を言われたのか解らなかった。

「全身全霊で俺を求めてくれた、ヴィクトリア……。

 本当に、このまま “ここ” に一生閉じ込めておきたいくらい、愛おしかった」

 その言葉は一見、

 妹を救う為に1度限りの逢瀬を重ねた、心優しい兄の最期の心配り。

 ――に聞こえなくもなかった。

 しかし、ヴィヴィのまだ火照っていた顔は、どんどん色を無くしていく。

 目の前の匠海の その微笑みが、あまりにも奇麗過ぎて。

 発した言葉の端々に、妹を執拗に己に縛り付けんとする響きが、滲み出ていて。

「や、やめて……」

(どうして……?

 何でそんなこと、言うの……?

 どうして、そんな出来ないことを、

 今更……言うの――?)
 
 包まれている二の腕以外、兄から少しでも遠ざかろうとするヴィヴィに対し、

「ヴィクトリア。俺の可愛い、ヴィクトリア……」

 何かに憑りつかれた様に、濁った瞳で妹を覗き込み、囁き続ける匠海。

「……やめ、て……」

 薄ら寒さを覚え顔を顰めたヴィヴィを、目の前の切れ長の瞳は、しばらく射抜いていたが。

「のぼせちゃったかな? もう出ようか」

 ふいにそう囁いて瞳を細めた匠海は、股の間で硬直しかかっていた妹の身体を支え、立ち上がらせた。

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