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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第3章   

(なか……?)

 兄の意外な答えに、長い睫毛を誇る目蓋が、ぱちくりと瞬く。

 自分の中――?

 確かに。

 兄の言う通り、今の自分の内面は、

 匠海の知る19歳までの自分とは、雲泥の差があった。

 どちらが秀(ひい)で、

 どちらが劣るか、

 それを言及をする必要さえも無いほどに。

「ん? あれ、自分でも気付かなかったか? 奥を突かれても、痛くなかっただろう?」

「……――っ」

( “なか” ……って……)

 まさかの匠海の指摘に、ヴィヴィの瞳も唇も、ぽっかりと開いてしまった。

「それどころか、気持ち良過ぎて「もっと」って可愛いおねだりまでしてた」

 腰を屈めて覗き込んでくる、端正な顔に宿る表情は、

 目にするこちらが恥かしくなるほどの、淫靡なもので。

「やめて……っ!」

 たまらず細い声で叫んだヴィヴィ。

 匠海にとっての “妹の最期の記憶” が、

 そんな猥雑なもので。

 敬愛や恋慕といった、心と心の繋がりから遥かに乖離した、

 ただ淫蕩に耽った性愛の “躰だけの印象” として残るだなんて。

 言い表せぬ虚しさに、陰と陽の感情を刻々と浮かべていた瞳が、哀しみだけに濁り始めていた。

 妹の異変に気付いた匠海が、髪を拭いていたタオルを放り、

 まるで壊れ物を扱うように、慎重に小さな顔を両の掌で包み込む。

「どうしてそんな顔をする? 俺は本当に嬉しいよ。

 これからもっと、ヴィクトリアの奥深くまで愛せるんだと思ったら」

「……え……?」

(これから、もっと……?)

 大きな灰色の瞳が揺れる先、

 すっと通った鼻筋の奥、彫りの深い目元を緩めた匠海が、己の発する熱情に蕩けんばかりに微笑んでいた。

「今夜はどれだけ気持ち良くなれるか、色々と試してみようか、ヴィクトリア?」

 今夜……?

 試す……?

 何を言っているのだ。

 自分たちはもう、

 これからオックスフォードに戻るのではないのか?

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