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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第3章   

「ヴィクトリア、俺に身を委ねて」

 顔面蒼白状態の妹に安心させようとしてか、ゆっくりとした所作で伸し掛かってくる匠海。

 けれど、

 ヴィヴィからしたら、兄のその様子は、

 喉笛に噛み付き、致命傷を負わせた獲物に対し、

「これからどうやって喰らい尽くそうか?」

 そう、腹の中で算段し、仄暗い愉悦を覚える肉食獣、

 にしか想えなかった。

「愛しているよ、ヴィクトリア」

 自分の愛した、愛嬌のある大き目の唇が、

 また1年半前と同じ呪詛の言葉を吐く。

「……そんなに……犯したいの……?」

「え?」

「……そんなに、日常を犯して……、

 禁忌を重ねて……。

 そこまでする意味は、一体何なの……?」

 その意味を確かめて、

 自分は一体どうしたいのだろう――?

「お前を愛しているからだよ、ヴィクトリア」

 羽毛布団に埋もれた自分を、上から覗き込む兄の微笑みは、

 何度言い聞かせても解らない出来の悪いペットに対し、

 通じる筈の無い “人間の言葉” で説き伏せようとしている、

 どこか馬鹿げた光景に見えて。

「……そんなに、気持ちいいの……?」

「ん?」

「近親相姦は、究極の『蜜の味』――」

 今から5年前。

 16歳だった自分に、匠海から面と向かって投げられた、心無い言葉。

「……じゃあ、不倫は、どんな味……?」

「………………」

 さすがの匠海も、妹のその静かな追及には、滑らかに動く舌を凍り付かせた。

「……そういう “付加価値” を付けないと、

 私を抱く意味さえ、見出せないというの……?」
 
 その時のヴィヴィは涙さえ見せなかったけれど、

 全身を使って泣き叫んでいた。

 私は、

 私は今日、

 たった数時間でも兄に抱かれ、あり余る幸福に包まれていた。
 
 自分の愛する男に、最期にたっぷり身も心も愛されたと、そう想えたから。

 けれど、匠海は “違う”。

 やはり、この兄にとっての自分は、そんなんじゃない――。

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