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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第3章   

 薄い唇が泣くまいと、ぐっと引き結ばれる。

 だったらもう、放っておいて。

 この1年半、そう出来たのだから。

 全く同じ事を、どちらかの命が尽きるその時まで、成せば良いだけの事ではないか。

 数年に一度、親族の前で互いに兄妹を演じあって、

 必要最低限の上辺だけの付き合いをして――。

 そうして、

 匠海は目の前にある自分の家族と、

 ずっと心の支えにしてきた篠宮の事業に心血を注いで、

 今の自身の生活を守るべきだ。

「俺がお前を抱く意味は、お前を愛しているから――ただ、それだけだ」

 まるで定型句を読み上げたかの如き匠海の言葉に、

「……愛している……?」

 ヴィヴィはそう問い直す。

「ああ」

 金の頭を撫でてくる大きな掌。

「……私を……?」

 しつこく追及する唇を、いい加減 封じたいのか。

 少し骨ばった指先が、薄紅色のそこにも這わされて。

「ああ、愛している」

 徐々に自分へと降りてくる、微笑みを湛えた顔を、

 ヴィヴィは瞬きもせずに、じいと見上げていた。

「それは “妹” として?

 お兄ちゃんの掌の上で転がされてる、哀れな生き物として?

 それとも、

 意のままに操れる、あやつり人形として?」
 
 だから本当に、

 その答えを知って、自分はどうしたいのだろう――?
 
 もう自暴自棄としか思えない、妹ととの応酬を、

「お前の全てを、だよ――」

 匠海はまた、誰にでも答えられそうな定型句で締め括り、

 今度こそ、本気で伸し掛かってきたのだった。





 兄に無理やり躰を開かれ。

 その時になってやっと、

 15歳の時に自分が犯した罪で、匠海がどれだけ苦しんできたか、

 初めて身を以て理解した気がした。

 相手の幸せを願い、心は「辞めて」と拒絶しているのに、

 有無を言わさず、無理矢理に与えられる快楽という地獄。
 
 この大きな手は、私なんかを触ってはいけないのに。

 この綺麗な唇は、私なんかに口付けてはいけないのに。

 この熱い舌は、こんな、

 他の男に穢された私なんかを舐めてはいけないのに。

 兄の全てがその家族、瞳子と、匠斗のものなのに――。

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