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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第3章
これ以上、生き恥を晒す真似をさせて、
一体、匠海は自分に何をさせたいというのか――?
「だから、嫌だって」
妹の懇願をあっさり切り捨てた兄は、何の苦も無くその躰を抱き上げ。
元いたベッドルームの中へと連れ戻した。
カーペットに降ろされた途端、細い脚はまた外へ出ようとサッシに寄るが、
「そんなに死にたい?」
「………………っ」
嘆息を押し殺した匠海の声音に、
サッシに手を掛けた状態で、ヴィヴィの両手は止まって。
「そうか。じゃあ、俺も後を追おうかな?」
無茶苦茶な言葉を続ける兄に、ヴィヴィは首だけで振り返る。
「……な……に……?」
「嘘吐いてると思ってる? 試してみようか?」
腰にバスタオルを巻いただけの匠海が、ゆっくりと背後ににじり寄って来て。
「ヴィクトリアの氷のように、冷たくなった躰。離さない様に抱き締めて、俺も湖に入るんだ」
恐ろしい睦言を囁く兄の顔は、それは夢見心地で。
「……や、やめて……っ」
小さな顔が金色の繭の中、恐怖と紙一重の表情を浮かべていた。
何でそんな事を言うのだ。
何で私を追い詰めるような事ばかり言うのだ。
私は、ただ、
兄に幸せになって欲しいだけなのに――。
もうこれ以上、匠海を見ていられなくて。
握り締めたサッシの縁に、額を押し付けたヴィヴィ。
その首元に後ろから顔を埋めてきた匠海は、
更に妹の自殺願望を叩き潰す、残酷な言葉を吹き込んでくる。
「ヴィクトリア……。お前がいないこの世になんて、俺は何の未練も執着も無いんだよ?」
兄のその告白は、絶対に嘘なのに。
妹が命を絶っても、
匠斗という、まだ1歳にも満たぬ宝物がいる匠海は、
ヴィヴィの後なんか、追う筈も無いのに。
「覚えておいで。お前だけが、俺を生かしも殺しも出来るんだ」
妹の身体をこの世に繋ぎ止める “呪縛の言葉” を吹き込んだ兄。