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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第3章
一晩中、涙が止まらなかった。
死ねなかった事についてでは無い。
罪悪感――。
瞳子と、匠斗に対して芽生えたその感情に、
灰色の瞳が壊れたように、涙を零し続けていた。
自分は、今迄にも沢山の人間を裏切ってきた。
両親。
クリス。
親族。
友人。
フィギュアに関わる人々。
正直、初めの頃のヴィヴィは、実の兄を己の妄執に引き摺り込みながらも、
自分を愛し支えてくれる周りの人間に対し、特に罪悪感を抱いていなかった。
そして、それに気付いていた匠海自身の手によって、『鞭』を与えられる事により、
どれだけ自分が周りに助けられてきて、
自分の凶行が酷い裏切りだったかを身を以て知り。
兄と恋人となってからは、裏切った人達へ何とか恩を返し、自分が出来る限りの償いをしてきた。
けれど、
過去に感じた罪悪感なんて、今の自分を襲っているそれとは比較にならない。
匠海は物じゃないけれど、
それでも瞳子と匠斗のものだ。
その既婚者の兄と、自分は1度ならず何度も、性行為を持った。
最期に、兄に忌まわしい記憶を塗り替えて貰ったら、
義姉と甥を裏切った責任を取って、1人この世を去る覚悟だった。
なのに、
匠海は言うのだ。
『じゃあ、俺も後を追おうかな?』
そんな、信じられない言葉を――
自分が死んだら、兄も死ぬ。
そんな事になったら、両親やクリス、
そして、匠海の妻と子供はどうなってしまうのだ?
「ヴィクトリア……」
抱き寄せた腕の中、妹が泣いているのに気付いていたらしい。
匠海は胸板に小さな顔を押し付けながら、何度も何度も繰り返す。
「お前が苦しむ必要は無いよ。
ヴィクトリアは俺に、無理やり抱かれているんだからね」
そんな言葉は何の気休めにもなりはしない。
全ての起因は自分。
その事実は、どれだけこれから匠海が酷い裏切り行為を働こうと、
決して塗り替えられることのない事実――。