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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第3章   

「今日はこれを着ればいい」

 そう兄が言い置いて行った、白シャツを不承不承着込み。

 匠海のサイズでぶかぶかのシャツワンピ状態で現れた妹に、

 兄が向けてきた うっとりした表情には、正直うんざりした。

 自分は青のポロシャツに、クロップド丈のホワイトデニムという格好の兄に、

「この爽やかエセ王子めっ」と、心の中で突っ込まずにはいられない。

「今朝はパンケーキにしたぞ」

「……そう……」

 アイランドキッチンで手際良く朝食の準備をする匠海に、

 ヴィヴィは興味無さそうに返しながら、リビングを横切る。

「喜べ。ヴィクトリアのは、ホイップクリームとメープルシロップ、たっぷりだ」

「……太る……」

 さすがにそう突っ込んだ妹を、兄は愉しそうに笑い飛ばすだけで。

「はは。大丈夫、摂ったカロリーは、すぐに消費させてやる」

「………………」

 恐ろしい事を口にする兄を、取りあえずスルーし。

 ダイニングに大人しく腰を下ろしたヴィヴィは、出されたパンケーキを黙々と食べ。

 最後のほうになると、さすがに歯が痛くなりそうな甘さに辟易し、

 無理やり匠海の口に、残りを捻じ込んでやったのだった。





(なんか、もう、どうでもよくなってきた……)

 リビングの4人は掛けられそうな大きなソファーの上。

 匠海の股の間に横抱き状態のヴィヴィは、まさにこんな→(-_-)やる気のない表情を浮かべていた。

 兄の帰国予定日がいつなのか? とか。

 仕事は大丈夫なのか? とか。

 家族は今頃どんな思いをしているのだろうか? とか。

 考えても仕様が無いのだ。

 この兄が、自分を解放してくれない限りは。

「ヴィクトリア」

 時折、妹の名を囁き、泣き腫らした目蓋や鼻にキスを落としてくる匠海。

 一体全体、

 自分の何が、そんなに匠海の関心を惹くのだろう――?

 全く以て解らないヴィヴィは、口の中で嘆息を殺しながら兄から視線を外し、

 大きな窓から望む、庭と湖畔を眺めていた。

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