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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第3章   

 目の前も、ついでに外も真っ暗だった、昨夜の自分。

 確かに、眼前に広がる湖に入ろうとした筈だったのに。

 たった数時間前のその衝動さえ、遠い昔の事のように思えた。

 ウッドデッキの先、芝生の張り巡らされた庭には、

 たぶん湖に生息する野鳥なのだろう。

 首が黒く長く、胸は白、背中は胡桃色のアヒル大の鳥が5羽もいて。

 たぶん「ガアガア、グエグエ」鳴いているのだろうが、密閉性を誇る窓ガラスはその声を届けなかった。

 平和だ。

 自分以外は。

 薄い唇の中、あくびを噛み殺していると、

「おや、クロクビナガドリ……」

 自分と同じものを見ていたらしい兄のその呟きに、ヴィヴィのまだ腫れぼったい目蓋がぱちぱちと瞬く。

 兄が野鳥に詳しいとは知らなかった。

 ちらりと自分の腰を拘束するその人を見上げれば、

「ん? 今、名付けた」

「……(-_-)……」

 悪戯が決まった少年のように得意げな表情を浮かべる匠海を、ヴィヴィは黙殺した。

 首が黒くて長いからクロクビナガドリ。

 なんてセンスもへったくれも無い、ネーミングなのだろう。

「……じゃあ、あのお花は……?」

 あまりに退屈で。

 大して期待せずにヴィヴィが指差したのは、今いるリビングに隣接する、ベッドルームの脇に植えられている白い花。

 遠目に花弁数が少ないのは判り、クリスマスローズあたりだと目星を付けていたが。

「ん? ああ、あれは “ヴィクトリアのちっちゃなお耳に飾ってあげたい花” 」

 予想の斜め上を行く匠海の命名に、

「……長……(-_-)」

 ぼそりと突っ込む妹。

「じゃあ……あれは? あの長いの……」

 細い指先が、今度は鳥たちの近く、ピンクと白の小さな花が縦長に連なる、トウモロコシ状の植物を指す。

「ん~~、あいつはそうだなあ。 “花を一つずつ毟って、ヴィクトリアの真っ白のおっぱいを彩りたい花” 」

 股の間から見上げてくる妹の頭頂部にキスを落としながら、匠海は命名してきて。

「……変態……(-_-)」

 一瞬そうされた状態を想像してしまったヴィヴィは、自分への戒めも込め、一刀両断した。

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