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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第3章
「あ、あれは判るぞ」
匠海が優美なラインを誇る顎で指し示したのは、少し建物の陰になった場所に自生する1m高の植物。
ホタルノフクロに似た鐘(ベル)を連ねた様な薄紫の花が、目立っていた。
「……なに……?」
今度は何をほざくんだろうと、変わらず胡乱な瞳を向けたヴィヴィ。
「ジギタリス」
「へ……?」
兄のその答えに、拍子抜けした。
何であの花に限っては、そんなまともな名前なんだろうか。
「知らないのか? あれは毒草だぞ」
「毒草?」
あんなにユニークで綺麗な花なのに?
「茎と葉に強い毒性があって、食べたら下手すれば心停止するぞ? 心不全や頻脈の治療薬として、有名だろう?」
顔を覗き込んでくる兄の言葉に、
ヴィヴィの瞳が、途端にぼんやりと灰色を濃くする。
「………………」
心停止。
その単語だけが、小さな頭の中に浮かんでいた。
「今「食べよう」と思っただろう?」
少しからかいを含んだ匠海の声音に、
「……おもってないよ……」
ぼそっと漏らしたヴィヴィは、兄の視線から逃れたくて、目の前の逞しい胸に額を押し付けた。
まるで甘える様なその愛らしい仕草に、匠海は腰を捉えていた腕を解き、金色の頭を撫で始めた。
「ふ。お前の考える事なんて全てお見通しだよ。だから離してやらない」
「……え……?」
「ヴィクトリアを離したら、庭に出て行っちゃうだろう? だから俺は、ず~~っとお前を抱っこしてないといけないんだ」
庭に出るのが悪い事と思えないし、
ましてや この状態を義務の様に言われてしまえば、ヴィヴィも面白くなくて。
「そんなの頼んでない」
「でも、俺はヴィクトリアに触れていたい」
料理や簡単な掃除等をする以外は、確かにずっと、ヴィヴィは兄に抱っこされていて。
「出て行かないから、離して」
「やだ」
「もう、しつこいっ」
ぱっと兄の胸から額を外せば、
「い・や・だ」
そんなイラとする溜めで、念押ししてくる匠海。
「~~~っ!?」
しばらく悔しそうな表情で、兄を睨み上げていたヴィヴィだったが。
なんだかそれも馬鹿馬鹿しくなり、ついにはふいと顔を背けた。