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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第3章   

「誰も見てない。きっと神も仏も見てない。だから幾らでも俺を欲しがって?」

 このまま なし崩しに事を進めるのが、つまらないのか。

 実の妹の自分にも、その意思を確認してくる兄を、

「……いらない……」

 ヴィヴィは静かに突っぱねた。

 神?

 仏?

 誰かに見られなければ、何をやっても許されるというのか?

 じゃあ、

 己の心は――?

「嘘吐き」

 まさかの言葉で妹を詰ってくる兄に、

「嘘なんか吐いてないっ! 私は不倫なんて、絶対に嫌だものっ」

 ヴィヴィは咄嗟にそう喚いた。

「ふうん。じゃあ、ヴィクトリアは、俺を捨てて、他の男に走るとでも?」

 兄のその詰問に、ヴィヴィはふと今シーズンのエキシビのナンバーを思い出した。

 もしかしなくても、匠海はヴィヴィのショーを観て、そこに込められた妹の気持ちを知ったのだ。

「……――っ そうよ」

 そんなつもりは露ほども無いのに。

 ヴィヴィは自分が他の男を見れば、匠海が諦めてくれるのならば、と咄嗟に嘘を吐いた。

「そして、俺がそれを許すと、本気で想っている?」

 頬を指先で擽りながら続ける匠海の表情は、常とそんなに変わりもせず。

「……どうして、お兄ちゃんの許しを得なければならないの」

 妹のそんな可愛げの無い返事にも、

「ヴィクトリアが俺のものだから」

 兄はまるでそれが法律で決められた事のように、当たり前に主張してくる。

「……ちがう……」

 自分が兄のもの?

 冗談じゃない。

「いいや、違わない。お前が言ったんだ『ヴィヴィはずっと、お兄ちゃんだけのもの』って」

 その聞き覚えのある言葉に、シャツに包まれた胸の奥がきしりと軋みを上げる。

「……何年前の話? それに私達は別れたわ」

「別れていない」

 自分の主張を曲げない兄の視線が強くて、ヴィヴィはふいと視線を反らした。

「もうお兄ちゃんを愛してなんかいない」


―――――――

※今シーズンのエキシビは、後の章で後述します。

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