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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第1章
「ええ、教授。この1年間、ヴィヴィが図書館に入り浸って、大きな瞳を輝かせて読書の虫になっていた様子は、このホールの皆が証人よ! で、どう、楽しみ?」
パーマをあてた黒髪を後ろに流し、額の下で生き生きと輝く黒い瞳に見つめられ、
「ん~、楽しみ半分、心配半分ってとこです」
馬鹿正直に答えたヴィヴィ。
「あはは。このホールには沢山の先輩がいる。何も心配することはないさ」
そう言ってブリッグス教授が見渡したウォルフソン・ホールには、大勢の学部生や大学院生、そして教諭陣がいて。
ヴィヴィはもうその大部分と、何らかしらの交流を深めていた。
「はい! じゃあ、すっごく楽しみです」
向き直ったヴィヴィは、そう言ってにっこりと微笑む。
その薄い胸の奥には、これからこの大学の一員になれる喜びに満ち溢れていた。
オックスフォードは街中にカレッジがひしめいており、
それぞれのカレッジで、学生と講師が寝食を共にして研究に勤しんでいる。
日本の皇太子妃が留学していたことで知られる、ベイリオル・カレッジ。
『ハリーポッター』の舞台となった、モードレン・カレッジやクライスト・チャーチ。
『不思議の国のアリス』の著者 ルイス・キャロルが教鞭を取っていたのも、クライスト・チャーチで。
そしてここ、セント・エドモンド・ホールも たまにドラマの撮影で使われており。
他のカレッジと同じく ほぼ毎日、観光客に向けて一部を開放している。
ヴィヴィは、この良い意味でこじんまりとした セント・エドモンド・ホールが大好きだった。
顔を合わせば誰もが挨拶を交わし、人恋しくなったら談話室に行けば誰かしらがいて。
そして会話を重ねれば、各分野のスペシャリストという、恵まれた環境。
もはや、ここはヴィヴィにとって “我が家” と言っても過言でない、居心地の良い場所となっていた。