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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第3章   

 玄関から外に出て、初めて2泊過ごした建物の外観を目にした。

 平屋建ての建物は石造りで、その堅牢な外観は、うっそうとした緑に覆い隠されていた。

 遠目に見れば、きっとそこに立派な家があるとは、誰も思わないだろう。

(2泊3日……お兄ちゃんと私を匿ってくれて、ありがとね……?)

 世話になった建物に礼を述べたヴィヴィ。

 エントランスの傍に停められていた見覚えのない黒の車に、荷物を積み込み。

「すぐ傍に管理棟があるから、そこに寄って、鍵を返すんだ」

 その兄の説明に頷き、扉を開けられた助手席に大人しく乗り込む。

「じゃあ、行くよ? 大体1時間ちょっとくらいで着くかな……って、おい!」

「………………」

 運転席に乗り込んだ匠海が、助手席の妹を振り返れば、

 そこにはシートを少し倒し、既にぐっすり眠りに就いているヴィヴィの姿があった。

「ふ……。疲れさせたもんな。ごめんな、ヴィクトリア……」

 柔らかな声音でそう妹を労わった兄は、その額にちゅっとキスを落とし。

 やがてゆっくりと車を発進させた。

 兄が言っていた通り、2人を乗せたレンタカーは、2分後には停車して。

 静かに車を降りて行った匠海の気配に、ヴィヴィはようやく薄らと目蓋を開く。

『コッツウォルズ・ウォーターパーク・ヴィラ 管理棟』

 そう書かれた木の看板が目に入り、

 そこでヴィヴィはやっと、自分達のいる場所を知った。

 クリーブランド・レイクス自然保護区。

 オックスフォードから1時間くらいで来られる、湖の密集地帯だ。

 2日前。

 湖のある場所の地名を思い浮かべた時、ヴィヴィが目星をつけた地名の1つがここだったのだ。

「………………」

 また目蓋を閉じたヴィヴィは、深い息を吐き出す。



 私を救う為に、

 自殺させない為に、こんな事をしたの――?



 確かに、ここにいる間、

 自分はリーヴの事よりも、匠海の事ばかりを考え、頭を悩ませていた。

 そして、

 今となっては、自殺する気力さえ、あの兄に剥奪されていた。

 まさに『命の恩人、感謝、永遠に――』だ。


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