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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第1章  

 披露宴が始まり、2時間ほど経過した頃。

 シックな照明で彩られていたバンケットホールが、更に灯りを抑えられる

 美しいクラッシックのBGMがフェイドアウトしていったかと思えば、

 代わりに響き渡ったのは、郷愁を誘うバンドネオン(アコーディオンの一種)の音色。
 
 何が始まるんだと、各円卓に着いた招待客が、きょろきょろとし始め。

 やがてその視線は、最後列付近の開け放たれた扉へと注がれた。

 まず目を引いたのは、スポットライトを跳ね返す、鮮やかな赤いドレス。

 ワンショルダーの肩を黒の羽飾りで止められたそれは、股下10cmとあまりに短いが、その左側だけは床に付きそうなほど長い。

 そこから延びる艶々輝く細い脚の先は、黒い9㎝の細ヒール(アルゼンチン・タンゴ用のシューズ)を纏っていた。

 金の髪を緩く巻いた女は、黒のサングラス越しに広いホールをねめつけながら一瞥し、

 本日の獲物を見つけると、赤い唇の口角をにっと上げた。

「え……? 誰、だれ?」

「わ、分かんないけど、めっちゃ脚長いね?」

 バンドネオンのスタッカートが効いた伴奏に乗せ、

 黒レースの手袋に包まれた手を腰に添えた女は、まるで小尻を見せつけるように色っぽく歩を進める。
 
 そしてホールの中程の席――プロスケーターの棚橋 大輔の姿をロックオンすると、

 その肩にしな垂れかかりながら、シャンパングラスを奪い取り、一口 口に含んでグラスを押し返す。

「ヒュ~~っ!」

 囃し立てる口笛と歓声に、調子に乗った女――ヴィヴィは、そのままスタスタと主賓の席まで歩み寄る。

 高砂席を一段上がると新郎の隣に回り込み、羽生の目前で黒いサングラスをもったいぶりながら外した。

 その瞬間、

「えっ!? あれ、ヴィヴィじゃない?」

「嘘~~っ!」

「ほんとだっ ヴィクトリア選手~~っ!?」

 ホール中が驚きの声に溢れ、それを目にした羽生は「してやったり」とほくそ笑んでいた。

「あら、近年 稀に見るイイ男♡」

 そう囁いたヴィヴィは、折り畳んだサングラスで羽生の顎を押し上げようとしたが、後ろから腕を掴んで止めさせられた。

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