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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第4章
「ヴィヴィ、「日本に帰る」って言わないと、離さないわよ?」
両手を掴んだまま、何故か半眼で娘をねめつけてくる母に、
「えぇ~~……」
ヴィヴィは情けない声を上げ、
「そうだねえ。かくなる上は、またダッドが担いで、飛行機に乗せてしまおうかな?」
「飛行機に搭乗する前に、出国審査で不審者扱いされて止められるわ」と、突っ込みどころ満載の父の脅しにも、
「冗談……」
ヴィヴィは金色の頭をがっくりと落とし。
結局、
「と、取りあえず、クリスと話がしたい……っ」
そう言って、ヴィヴィは逃げる様に、リビングを後にした。
廊下を辿り、屋敷の右側に位置する防音室とライブラリーを覗くが、そこには姿が見えず。
(クリスの部屋、かな……?)
2階からの吹き抜けに吊られた、小ぶりなシャンデリアを見上げたヴィヴィは、木の温もり溢れる階段を登って行った。
右端のクリスが使っているマスターベッドルームから、人の気配がして。
階段を登りきり、板張りの廊下を進むヴィヴィの耳に、
匠海らしき少し低めの声が届いてきた。
「――、あるいは、な。だが、悠長な事を言っていられる時間も、無いだろう?」
「………………」
「あの子を、責めるな」
「………………」
部屋のすぐ前まで寄っても、聞こえてくるのは、匠海の声ばかりで。
(……“あの子”……って?)
10cm程開いたままになっていた扉の前、ヴィヴィは何故か立ち竦んでしまった。
「クリス」
無言のままの弟を呼ぶ、兄の声に、
「……言われなくても、解っている」
そう答えたクリスの声は、酷く暗かった。
「ああ、そうだろうね……。お前は、聡いから」
匠海のその言葉の数秒後、
目の前の扉が、内から押し開けられてしまった。
戸口で立ち尽くしていた妹に気付いた兄は、
「ん? どうした?」
そう何事も無かったかのように、ヴィヴィに微笑みを見せてきた。
「……姿が、見えなかった、から……」
立ち聞き状態の自分に気付いたヴィヴィは、少し言いにくそうに返す。