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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第4章
シーズンインまで、もう2ヶ月を切っている。
クリスのその考えは、当然のもの。
(ていうか、私だってそうしたい……)
「傍に居て、あげたいけれど……」
金色の頭髪をくしゃりと掻き上げるクリスには、苦渋の決断だったのだろう。
「ありがとう。そう思ってくれるだけで、充分 救われてる」
クリスには何の非もない。
それどころか、自分の事で胸を苦しませている双子の兄に、早く楽になって通常通りの生活へと戻ってほしいと切に願う。
「ヴィヴィ……。おいで……」
こちらへ向かって片腕を差し出すクリスへ、ヴィヴィはゆっくりと近付き。
そしてその華奢な身体は、静かに目の前の胸へと引き寄せられた。
渡英後、毎日の様に自分を抱き寄せて慰め。
加えて、安堵と明日への希望を授けてくれたクリスの抱擁は、常と同じく暖かで。
ほうっと大きく息を吐いたヴィヴィは、兄の背に回した両腕に力を込める。
「ごめんなさい、クリス……。私……、クリスとダリルに、あんな最低なこと……」
『死なせて……』と何度も懇願した上、
この部屋で、自分は首を吊ろうとした。
「ううん。悪いのは、ヴィヴィじゃない……。ヴィヴィは、何も悪くない……」
クリスのその呟きは、どちらかというと腕の中の妹に対してではなく、己に対して言い聞かせているようにも聞こえて。
「もう、大丈夫……?」
抱擁を緩め、上から覗き込んでくるクリスに、
「うん。私、まだやりたい事、一杯あるもん」
ヴィヴィはしっかりとした声で、自分の気持ちを伝えた。
「良かった……」
言葉は短くても、灰色の瞳には深い安堵の色が滲んでいて、
「だって、双子のショー、出来るなんて、夢みたいなんだもん」
きゅっと口元を引き締めたヴィヴィに、
「そうだった……」
クリスも引き締まった表情を浮かべていた。
「すぐ、帰ってくる」
自分の生活基盤は、もうここ英国なのだ。
「うん、待ってる……」
双子の兄の傍で、スケートに、勉学に、そして自分がやるべき事に打ち込みたい。