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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第4章
「クリス……。本当に、ごめんなさい。ありがとう……」
ここ3日のクリスの苦悩なんて、自分には計り知れない。
心根の優しい彼のこと。
一緒に帰れば良かった、
どうして元執事の正体を見破れなかったのか、
――そう、自分を責めたに違いなくて。
申し訳無さ一杯で、クリスの身体を再度 抱き寄せようとしたヴィヴィ。
けれど、その細い二の腕は、大きな掌に包み込んで止められた。
「本当にそう思うなら、日本で良い子にして、1日も早く帰って来て……?
タンゴ、練習して、双子EX、完璧な滑りにしよう……」
真っ直ぐに妹を見つめ、心から自分を必要としてくれる双子の兄の言葉が、嬉しくて。
「だねっ 私、日本で超良い子にしてるよ」
勢い良く宣言した妹に、兄は「頼みますよ」と念押しし、その身体を力強く抱き締めたのだった。
クリスの部屋を出たヴィヴィを、待っている人間がいた。
「お嬢様、今日明日は、こちらの部屋をお使い下さいますか?」
そう言って朝比奈が開けた部屋は、クリスの隣の部屋で。
「え……?」
一瞬きょとんとしたヴィヴィ。
けれどすぐに、執事の言わんとする事が解った。
屋敷の左奥に位置する自分の部屋(マスターベッドルーム)。
3日前、悪夢の現場となったそこに、ヴィヴィも入りたいとは思わなかった。
お気に入りだった筈の、支柱の付いた白のベッド。
必死に縋って一歩でも遠くへ逃げた、百合の紋章が入った水色の清楚な壁紙。
そして、血で汚された床板。
もう、あの部屋で生活するなど、不可能だった。
「当面の生活に必要となるであろう物は、こちらに移しました。お嬢様が帰国されている間に、部屋の改装を業者にお願いしております」
「そう……」
短く了承したヴィヴィはあてがわれた部屋に入り、真っ直ぐにバスルームへと向かった。
マスターベッドルームの物よりは、小ぶりな洗面台。
その収納を開けたヴィヴィは、すぐに見付けられた錠剤のシートを手に取り、1粒開封した。
部屋へと戻れば、卓上の水差しからコップへ水を注いでいる朝比奈がいて。
受け取ったヴィヴィは、小粒のそれ――ピルを飲み下した。