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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第4章     

 しょぼくれたヴィヴィに、朝比奈は笑顔で大きく頷いた。

「お伝えした筈ですよ? 私はお嬢様を娘や孫のようにお慕いしているのです。もちろんクリス様も、同様に」

 葉山の別荘でも言ってくれた気持ちを、再度言葉にしてくれた執事に、

「うん……。私も、朝比奈のこと、年の離れたお兄ちゃん? 年の離れた従兄? 叔父さん? のように思ってる」

 ヴィヴィは至極真面目にそう返した。

「 “年の離れた” は余計な気がしますが、とても嬉しいですよ」

 苦笑する朝比奈に、ヴィヴィはこてと金色の頭を傾げ、

「てか、朝比奈?」

「何でしょう?」

「日本に彼女、出来てないの?」

 こんな急に渡英してしまっては、恋人が可哀想だと、ヴィヴィはヴィヴィなりに、気を使って発しただけだったが。

「……喧嘩を売ってらっしゃいますか?」

 以前と同じく、胡乱な瞳を隠さずに向けてくる朝比奈が面白くて、思わず「うんっ」と大きく頷いて笑った。

「お嬢様……っ ふふ……。もう一度ハグしても宜しいですか?」

 銀縁眼鏡の奥の瞳が、もうこれ以上ないくらい垂れていて、

「うん。ぎゅ~~っ」

 ヴィヴィは自分から、黒いスーツの胸に飛び込んだ。

 小さな頃からずっと感じてきた、その懐かしい朝比奈の香りに、薄い胸の中に途轍もない安堵が広まった。

(へへ。やっぱり “私の執事” は、朝比奈だけなの……)

 だが、朝比奈は容赦無かった。

「ところで、お嬢様? 何日ぶりにお会い出来ましたか、お分かりです?」

「う゛……っ」

「459日ぶりですよ? はぁ……、長かったですねえ~~?」

 わざとらしく大きな嘆息を零すその人に、

「す、すんません……」

 ヴィヴィは何も言い訳出来ず、胸の中で謝罪するしかない。

「約1年3ヶ月ぶりですか……。よくもまあ、こんなに長い間、篠宮のお屋敷に寄り付かれませんでしたねえ?」

「ご、ごめんってぇぇぇ~~っ」

 確かに。

 篠宮の屋敷に戻らなくても、朝比奈をどこかに呼び出せば、幾らでも会えたのだが。
 
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